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第12回 「持続可能な開発」原則の歴史と本質的特徴―「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」時代におけるSDGs追求のための基礎的考察―


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北野 嘉章
(国際関係学部 助教)

該当目標

ページ内目次


Webエッセイ

1. はじめに

国連が「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」(以下「SDGs」)を採択したのは、5年前の2015年のことでした。その国連は、今年も例年と同じように、9月から総会の通常会期を開催しています。今回は1945年の国連創設から75回目という節目でもあり、会期中には例年にも増してさまざまなイベントが予定されています。しかし、各国の首脳などが演説を行う一般討論が録画の上映に変更されるなど、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は国連の運営にも及んでいます。もっとも、このような状況においても、2030年をターゲットイヤーとするSDGsを国連が追求する方針に変わりはありません。

国連総会の一般討論における菅首相の演説(出典:UN Photo / Loey Felipe)

日本国内でも、ここ数年SDGsという言葉を広告などでよく目にするようになりました。これは、国連が2000年に定め2015年をターゲットイヤーとした「ミレニアム開発目標」への関心がいまひとつ高まりを欠いたことと比べると対照的です。新型コロナウイルスの感染拡大後も、日本社会全体におけるSDGsへの関心は低下していないように思われます。

「持続可能な開発」という考えは、実はそれほど新しいものではありません。筆者が大学の学部生だった20年ほど前には、すでに授業で取り上げられていました。このオンライン講義では、「持続可能な開発」原則の誕生からSDGsの設定に至るまでの歴史をふりかえりつつ、その中で何が変わっていないか、つまり同原則の本質的特徴とは何かを検討したいと思います。この基礎的考察を通じて、「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」の時代にSDGsを追求するための本質的な理解を共有できれば幸いです。

2.「持続可能な開発」原則の誕生

SDGsが目指すものとして多くの人々がまず思い浮かべるのは環境保護でしょう。例えば、SDGsの「目標14」には「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」とあります。もっとも、国連の創設のために1945年に採択された国連憲章を見ると、環境問題への言及はありません。国連の第一の目的は「国際の平和及び安全を維持すること」(1条1項)とされています。また、経済や人権に関する条項も盛り込まれましたが、これは世界恐慌やユダヤ人迫害が第二次世界大戦の遠因になったとの反省によるものです。

しかし、その後、戦後の経済開発の副産物として、日本の四日市ぜんそくの発生など環境の悪化が深刻になるにつれ、国連の活動領域は環境にも広がっていきました。

1972年に国連は、初めて環境問題に特化した国際会議として、「国連人間環境会議」(以下「ストックホルム会議」)を開催しました。同会議が採択した「人間環境宣言」(以下「ストックホルム宣言」)では、以下のように、開発と環境保護の調和の必要性が強調されています。
「資源の合理的な管理を行い、かつ、環境を改善するため、国は、その開発計画の立案にあたり住民の利益のため人間環境を保護し改善する必要性と開発が両立しうるよう、統一的で調和のとれた方法をとらなければならない」(第13原則)

ストックホルム会議の様子(出典:UN Photo)

また、同年に国連総会は、ストックホルム会議からの勧告に基づき、環境問題に取り組む機関として「国連環境計画」(以下「UNEP」)を設立しました。

「持続可能な開発」という言葉が初めて登場した国際的な文書は、UNEPと環境NGOである国際自然保護連合が1980年にまとめた『世界保全戦略』であるとされています。続いて1983年、国連総会は「西暦2000年以降において持続可能な開発を達成するための長期的環境戦略を提案すること」を任務とする「環境と開発に関する世界委員会」を設置しました。同委員会は、1987年に報告書『我々の共通の未来』を国連総会に提出し、その中で「持続可能な開発」を以下のように定義しました。
「将来の世代が自己の必要性を充足する能力を損なうことなく、現在の世代が必要性を充足することのできる開発」
ここに、「持続可能な開発」の原則が国際的な認知を得て誕生したのです。

3.「持続可能な開発」原則の発展

このように、誕生当時の「持続可能な開発」の原則は、今生きている私たちの世代と未来に生まれる子どもや孫たちの世代、そのどちらもが水や食べ物といった必要なものを手に入れられるよう、経済開発と環境保護を調和させることを目指す、というものでした。しかし、同原則は、やがて環境保護以外のさまざまな問題とも関連づけられるようになっていきます。

1992年に国連は、ストックホルム会議の20周年を記念して、「国連環境開発会議」(以下「リオ会議」)を開催しました。同会議が採択した「環境と開発に関するリオ宣言」(以下「リオ宣言」)では、「持続可能な開発」と切り離せない問題として平和やジェンダーの平等が挙げられています。例えば、ジェンダーの平等に関して、同宣言は以下のように述べています。
「女性は、環境の管理と開発において重要な役割を有する。そのため、女性の全面的な参加が持続可能な開発の達成に不可欠である」(第20原則)

リオ会議の様子(出典:UN Photo / Michos Tzovaras)

さらに国連は2002年に、リオ会議後の10年間の進捗状況を検証するため、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(以下「ヨハネスブルク会議」)を開催しました。同会議が採択した「持続可能な開発に関するヨハネスブルク宣言」(以下「ヨハネスブルク宣言」)では、以下のように、幅広い問題が「持続可能な開発」を妨げているとの認識が示されています。
「我々は、人々の持続可能な開発に深刻な脅威となっている世界の諸条件に対する戦いに特別の焦点を当て、優先して注意を払うという我々の誓約を再確認する。これらの諸条件には、慢性的な飢餓、栄養不良、外国による占領、武力紛争、不正薬物問題、組織犯罪、腐敗、自然災害、不法な武器売買、人身売買、テロリズム、人種的・民族的・宗教的その他の憎悪の対象に対する不寛容と扇動、排外主義、風土病、伝染病及び慢性疾患、特にエイズ、マラリアと結核が含まれる」(第19項)

ヨハネスブルク会議で演説するアナン国連事務総長(出典:UN Photo)

2015年に国連が設定したSDGsは、上記のストックホルム宣言、リオ宣言、ヨハネスブルク宣言などの内容を集めて再整理したものとなっています。ここで、SDGsの17の目標をあらためて見てみましょう。

目標1
あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標2
飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
目標3
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標4
すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標5
ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標6
すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
目標7
すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標8
すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
目標9
レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
目標10
国内および国家間の不平等を是正する
目標11
都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
目標12
持続可能な消費と生産のパターンを確保する
目標13
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標14
海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
目標15
陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
目標16
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
目標17
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

これらの目標は、「持続可能な開発」原則の歴史的発展の、現在における到達点であると言えます。

4.「持続可能な開発」原則の本質的特質

ここまで、「持続可能な開発」の原則が、その歴史的発展の中で、世界のさまざまな問題と関連づけられてきたことを見てきました。

それではここで、「はじめに」で提起した問いについて考えてみたいと思います。「持続可能な開発」の原則の歴史において変わっていないもの、つまり同原則の一貫した本質的特徴とは何か。結論から言えば、それは、同原則と関連づけられる諸問題は互いに切り離せず、従ってそれらの解決を同時に追求しなければならない、ということです。このことは、リオ宣言第25原則の「平和、開発及び環境保護は、相互に依存し、かつ不可分である」や、国連総会決議中のSGDsの説明文「持続可能な開発目標とターゲットは一体で不可分のものである」に明示されています。言い換えれば、一部の目標だけに取り組んでSDGsを追求していますと主張しても、それは的外れなのです。

日本の広告などには、SDGsの特定の目標(例えば「健康」に関する目標3)のアイコンと自分たちの製品やサービスを結びつけ、SDGsを追求しているとアピールするものがあります。しかし、それらの企業や組織がもし採用や昇進において女性を差別するなら、あるいは製品やサービスを提供するために従業員を不当な条件で働かせるなら、そのアピールはSDGsとは相容れないものとなってしまいます。企業や組織のリーダーがSDGsの17色のピンバッジを身に付けるということは、17の目標すべてに取り組む意志を表明していることになるのです。

SDGsの17の目標を表すピンバッジ(出典:Project Kei)

5. おわりに

SDGsの17の目標は、何かをしていることをアピールするために選り好みして用いるものではなく、私たち一人一人が、所属するコミュニティで、何ができていないかを点検するためのリストとして用いることができるのではないでしょうか。また、企業にとっては、17の目標に関する取り組みの具体的な内容を年次報告書などで発信することが、今後のグローバルビジネスにおける信頼の獲得につながるかもしれません。

新型コロナウイルスの感染拡大がこれまでの社会のあり方を大きく揺さぶったことで、より望ましい社会のあり方を模索する動きが日本や世界で加速しているように思われます。そのような中で、「持続可能な開発」の原則の現在における到達点であるSDGsが適切に理解され、日本社会そして国際社会が、SDGsを指針としてより調和のとれたものとなっていくことを願ってやみません。


<主な参考文献など>
  • 国連広報センターウェブサイト(https://www.unic.or.jp/)。
  • 兼原敦子「持続可能な開発」国際法学会編『国際関係法辞典(第2版)』(三省堂、2005年)433頁。
  • 西村智朗「現代国際法と持続可能な開発」松田竹男ほか編集代表『現代国際法の思想と構造Ⅱ 環境、海洋、刑事、紛争、展望』(東信堂、2012年)27-51頁。

<著者紹介>
北野嘉章(きたの・よしあき)
1978年生まれ。2001年京都大学法学部卒業、2010年京都大学大学院法学研究科博士後期課程修了。京都大学博士(法学)。現在、静岡県立大学国際関係学部助教。専門分野は国際組織法。近著としてYoshiaki Kitano, "The Legal Basis for the Exercise of Jurisdiction by the International Criminal Court and the Preparatory Work of the Rome Statute (VI)," Journal of International Relations and Comparative Culture, Vol. 19, No. 1 (September 2020), pp. 41-52.


(2020年11月6日公開)

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