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第11回 新型コロナ感染拡大の時期における児童虐待防止にむけて


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佐々木 隆志
(短期大学部 教授)

該当目標

ページ内目次


Webエッセイ

1. 新型コロナの拡大と家庭の意味の変化

子どもにとって、家庭は最も安全な居場所や生活の場である。たとえば、児童福祉の歴史において、1909年児童福祉白亜館会議(アメリカのホワイトハウス会議)のなかで、当時のルーズベルト大統領が子どもの生活の場として「家庭に代わる場所はない」と指摘し「児童は緊急やむを得ない理由がない限り、家庭生活から引き離されてはならない」として、「家庭は文明の最高の創造物」と宣言した。
この思想は全世界に発信され、子どもの養育は家庭に勝るものはないとした考え方が、今日の基調となっている。
しかし、家庭は子どもにとって、最も危険な場所でもあることを忘れてならない。新型コロナの感染拡大はその危険性をさらに増幅させている。
世界中の新型コロナの感染拡大で、Stay Home(自宅待機)が呼びかけられている。日本においても2020年4月7日に緊急事態宣言が出され、その後、5月25日に解除することが発表された。これにより、保護者らはリモート等により在宅勤務が多くなり、子どもとの接触時間も多くなってきた。長く家の中に居ることを余儀なくされている親と子どもたちは、双方とも日増しにストレスが蓄積されていく。
また、高齢者・児童・心身障害者などの方々が同じ空間である家の中で養育者や介護者と24時間、生活している。この現状はまさに「三つの密」が最も起きやすいリスクを抱えている。

写真:遊びの意義 子どもは、遊びを経験することにより様々なことを学習していく。子どもは外遊びの中で人や物、自然と関わりながら想像力を広げていく。子どもにとって遊びは人生の土台である。多くの遊びを経験させましょう。

2. 児童虐待増大のリスク

いつの時代でも弱い立場にある者が暴力を受けやすい。私は、児童虐待問題は子どもの貧困と同様に、社会が生み出した産物と考えている。家庭という密室でおこる児童虐待は発見されにくい。発覚されるのは虐待の事件がおき、幼い子どもの命が奪われてからである。
私は新型コロナ感染拡大の時期において、家庭生活の状況が大きく変化している点に気を配る必要があり、特に、児童虐待のリスク拡大に注目する必要があると考えている。
以下、家庭内でおきている具体的状況を考えてみよう。たとえば、在宅勤務になった夫が、子どもの「泣き声がうるさい」と妻に注意する。注意された妻は、「怒鳴られた」「うるさいと言われた」「恐怖を感じた」というマイナスの感情をもつ。そして、夫婦ゲンカにまで発展する可能性がある。
新型コロナ感染拡大の時期において子どもも母親も行き場がないと感じてしまう。やがて母親は体調不良を訴え、また、どこにも相談できず、日々悩みやストレスを抱える。多くの家庭では、臨時休校になった時から、子どもの養育が大きな悩みであった。新型コロナ感染拡大で、上記のような状況は、日本のみならず海外の国々においても起きている。

その現状のなかで、児童虐待が発生する社会的要因について考えてみる。第一に挙げられるのは、新型コロナの影響により、働き手の就労の機会が奪われ、経済的な困窮状態に陥っていることである。在宅勤務を命じられ、賃金が減り、生活が苦しくなっている現状が多くみられる。これを背景に働き手のストレスが増大している。そのストレスがまた要因となり、夫婦関係や親子関係が劣悪に発展してしまう傾向がある。

図1:児童虐待の発生

図1で示した家庭状況が新型コロナ感染拡大のなかで変化し、家族構成員それぞれのストレスが普段より大きくなっている。特に母親の「孤独」や「孤立」も起きている育児や家事において丸ごと抱え込みが発生している。それは「社会的孤立」や「将来への不安」の一形態となっている。
新型コロナと児童虐待との相関を見れば、通常の児童虐待の発生要因と異なる点は、在宅における「密」の発生という「家庭生態」の急変である。在宅生活重視は児童虐待のリスクを拡大している。
では、このような虐待に発生しないようにするために、私たちに何が求められるか考えてみる。
これに関して、2020年4月22日NHKのNews WEBによると、フランス政府による児童虐待防止広告がYouTubeで流れている。「家の中から泣き叫ぶ子どもの声」「それを怒鳴りつける母親の大声」が聞こえるシーンがあり、そのあとに「虐待の疑いに気づいたら通報を」と呼びかけている。
日本政府も同様な児童虐待防止の対策をとる必要があるだろう。以下では、まず日本の児童虐待防止法の法整備の実態を紹介する。
児童虐待防止法は、2000年4月に成立し、これまで何度か改正されてきている。2020年4月改正では、親の体罰禁止が明文化されている。2018年度全国の児童相談所に寄せられた児童虐待相談件数は159,850件であり、過去最多となっている。対前年度比119.5%(26,072件増)、2013年度73,802件、2008年度42,664件となっており、10年前と比較すると約3.7倍伸びていることがわかる。
2020年に改正された児童虐待防止法のポイントは以下の通りである。

(親の体罰禁止、20年4月改正虐待防止法が成立 日本経済新聞社,nikkei.com)

この改正では、児童虐待の禁止と関係機関の義務が課せられている。子どもを守る法律・制度が年々整備されているにもかかわらず、児童虐待の件数が伸びている理由は何か。
その要因は複数あり、一つは急激な社会変動が家庭に与えたプレッシャーである。与えられた家庭における大人のストレスが、弱い存在である子どもに向けられたと考えられる。新型コロナの時期では、児童虐待の問題がより鮮明に現れてきたのである。

3. 新型コロナの時期における児童虐待の予防

新型コロナの時期における児童虐待を予防するために、私は家庭内においても、子どもとの距離を一定時間、一定空間保つことがとても重要と考えている。「家庭という限られた空間で、子どもとの距離を保つこと」(Family Distance)が新型コロナ感染拡大防止と、児童虐待防止の両者を維持する唯一の方法である。そのため、子どもの些細な行動にあまり注意せず、見守る姿勢が大切である。母親は自分の最も好きなことをその瞬間、こころのチャンネルを切り替えることが大切である。つまり、子育ては、「焦らず」、「急がず」、「おちついて」が大切である。
「普段できていたことが出来なくてもよい」、「新型コロナのため、その生活課題の達成度を70%程度から30%まで大きく下げる」などの考えの転換が必要である。要するに「社会生活全体の目標値が下がっている」と常に自分に言い聞かせることが最大の虐待防止に繋がる。
児童虐待の多くは、親自身の感情のコントロールができなくなった状態で発生する場合が多い。そのため、親自身も気付いてみれば、愛する我が子を「虐待してしまった」場合がある。この場合、図1に補足するならば、親子関係の不完全さが虐待を引き起こすケースがある。対策としては親自身が子どもに対する否定的側面と肯定的側面をもつことを常に意識して行動する必要がある。
たとえば、「子どもが親の言うことを聞かない、聞けない」。「親の言っていることを理解できない」。これらの場合では、子どもに親の気持ちを理解させたいという思いで「叩く」「殴る」などの虐待が起きる。私はそこで、家庭内における児童虐待を未然に防ぐために、ファミリィ・ディスタンス(家庭内での距離)を提唱したい。

【新型コロナ感染拡大の時期における児童虐待防止の5つのポイント】
① 子どもの言動に過渡に注意しない。
② 子どもの言動に注意するより、いつも以上にほめてあげる。
③ 子どもとの距離を保つ。
④ 子どもの自由を、家庭内で最大限に認めてあげる。
⑤ 子どもと別な部屋にいるように常に努める 
(2020.8.25 佐々木隆志作成)
要するに、児童虐待を未然に防ぐ一番の方法は、「親子が離れること」、「一定時間、一定空間、家庭内での距離を保つこと」にあると私は常々考えている。

新型コロナがなければ保育所や幼稚園、子育て支援センター、児童館などの社会的支援のサービスを受けることが可能である。しかし、新型コロナの影響によってそれらの社会的支援のサービスは全て自粛の方向に向かっている。このような状況のなかで、家庭内でも親は子どもに距離を置き、母親は自分の好きなことを少しだけ楽しむという心の空間を設けることが必須なのである。
新型コロナウイルスの感染拡大の時期こそ、私たちは努力によって、拡大する可能性のある児童虐待を直ちに止めなければならない。これは児童虐待の減少が社会の幸福度向上につながるからである。

近隣の遊び場を活用しよう


<参考>
【最近の研究】「佐々木隆志津久井やまゆり園」で検索
1 自閉症の子を持つ大学教授が相模原事件・植松被告に尋ねた一つのこと(現代ビジネス2018年8月29日)
 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57217

2 静岡)やまゆり園事件を忘れない 学生らが街頭活動(朝日新聞2020年7月26日)
 https://www.asahi.com/articles/ASN7T7G3RN7PUTPB005.html

3 やまゆり園事件3年 差別のない明日へ 誓いの集い各地で(神奈川新聞2019年7月27日)
 https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-184777.html

4 相模原殺傷事件「忘れないで」 静岡県立大短期大学部教授ら啓発活動(静岡新聞2020年7月22日)
 https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/789351.html

5 「植松君には人間の心が数パーセントある」相模原殺傷から3年、佐々木教授が面会を振り返る(livedoor NEWS 2019年7月26日)
 https://news.livedoor.com/article/detail/16835121/

6 相模原殺傷、被告に死刑判決 佐々木教授らに聞く「プロセス言及なく残念」(東京新聞2020年3月17日)
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/9124

7 相模原殺傷事件2年 被告、今も主張改めず 19人の犠牲者ひとくくり 福祉専門家、面会重ね(毎日新聞2018年7月24日)
 https://mainichi.jp/articles/20180724/ddm/012/040/139000c

8 「植松君には人間の心が数パーセントある」相模原殺傷から3年、佐々木教授が面会を振り返る(弁護士ドットコムニュース2019年7月26日)
 https://www.bengo4.com/c_1009/n_9926/

9 福祉施設の6割防犯強化、研究者「共生妨げに配慮」 全国調査(MEDIFAX web2019年6月26日)
 https://mf.jiho.jp/article/197938

10 相模原殺傷、被告に死刑判決 佐々木教授らに聞く「プロセス言及なく残念」(FC2ニュース2020年3月17日)
 https://gogotamu2019.blog.fc2.com/blog-entry-8583.html


(2020年9月10日公開)

ビデオ講義

YouTubeサイトで見る(外部サイトへリンク)


(2020年9月15日配信)

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