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第8回 コロナウイルスの理解と新型コロナウイルスの治療薬、取るべき対策について


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高橋 忠伸
(薬学部 准教授)

該当目標

ページ内目次


Webエッセイ

1. はじめに

2019年12月8日、中国湖北省の武漢で原因不明の肺炎が報告されたことに端を発し、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)から「世界的な大流行(パンデミック)」と表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)により引き起こされました。今回のエッセイではコロナウイルスの基礎的な知識を解説し、報道などで散見されるキーワードについて各個人の理解を深め、一部の治療薬の現状を示します。そして、SDGs的世界(SDGs目標「すべての人に健康と福祉を」)に貢献してくいことをめざして、現在の新型コロナウイルス騒動の収束後に取るべき対策について考えていきます。

2. コロナウイルスについて

■人のコロナウイルスの種類
コロナウイルスは豚や鶏などの家畜や猫などのペットの疾病で大きな問題となるウイルスが多く、畜産国では盛んに研究されてきました。一方、人に日常的に感染するコロナウイルスは4種類で鼻かぜの原因の一つにしかすぎません。多くが6歳までに感染して軽症であるため、医学研究は盛んではありませんでした。過去に2種類の新型コロナウイルスが、人における流行を起こしました。2002年11月16日に中国南部広東省で肺炎の患者が報告されたことに端を発し、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)の感染が拡大しましたが、2003年7月には終息宣言が出されました。SARS-CoVは、キクガシラコウモリのコロナウイルスに由来すると考えられています。SARS-CoVの流行を契機に、コロナウイルスは医学研究を含む多くの分野で盛んに研究されるようになりました。さらに2012年9月22日に、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が分離されたことが報告されました。MERS-CoVは、現在でも医療施設や家族内等において人から人への限定的な伝播が確認されています。MERS-CoVはヒトコブラクダのコロナウイルスに由来すると考えられています。通常の人コロナウイルスがほぼ6歳以下で感染するのに対し、SARS-CoVやMERS-CoVは子供にはほとんど感染しないとされています。

■コロナウイルスの形態
電子顕微鏡で観察されるコロナウイルスは、直径約100 nmの球形で表面に突起が見られます。ウイルスの形態が王冠に似ていることから、ラテン語で王冠を意味する「コロナ」が名前に付けられました。ウイルスの設計図である遺伝子(ゲノム)は一本のリボ核酸(RNA)です。ウイルスゲノムの大きさは、RNAをゲノムとするウイルスの中では最大サイズです。RNAはヌクレオカプシド(N)タンパク質に巻き付いており、脂質の膜(エンベロープ)で覆われています。この膜の表面には、スパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、メンブレン(M)タンパク質が配置されています。また、ヘマグルチニン-エステラーゼ(HE)タンパク質を持つものもいますが、SARS-CoVや今回の新型コロナウイルスは持っていません。

■コロナウイルスの感染経路
コロナウイルスの感染経路は主に、咳やくしゃみで発して5µm以上の大きさからすぐに地面などに落下する飛沫を介した「飛沫感染」と、ドアノブや手すりなどのウイルスが付着した部位を手で触れて口・鼻に運搬してしまう「接触感染」があります。手でウイルスを触れるだけでは感染しません。SARS-CoVはこの2経路の他に、接触感染の一つで糞便を介した「糞口感染」も主体とされ、さらに4~5µmより小さい微粒子が空気中で浮遊して長距離を移動する「空気感染(飛沫核感染)」も疑われています。感染予防には正しい手洗いが重要です。市販のメディカルマスク・サージカルマスクによる感染予防では空気感染を防ぐため、マスクの縁と顔面の隙間から空気の漏れを極力防ぐように装着することが必要です。さらに、マスクの装着により感染者の飛沫が周囲へ飛散する飛沫感染を防いだり、ウイルスが付着した手を口・鼻に触れてしまう接触感染を防いだりできますので、一定の感染予防効果が期待できると思われます。ウイルスの付着したマスクを介した感染を防ぐため、使用済みのマスクはビニール袋などに密閉して捨てます。

3.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)について

■新型コロナウイルスの正式名称
2020年2月11日、新型コロナウイルス感染症はWHOから正式名称「COVID-19」にすることが発表されました。一方、このウイルスはSARS-CoVと性状が似ていて遺伝子的にも80%の相同性があり、国際ウイルス分類委員会からウイルス名は「SARS-CoV-2」と命名することが発表されました。ここではわかりやすいようにSARS-CoV-2を新型コロナウイルスと記載します。

■新型コロナウイルスの特徴
新型コロナウイルスはコウモリのコロナウイルスに遺伝子的に最も近く95%以上の相同性がありますが、コウモリのウイルスが人へ直接感染したのか、人とコウモリの間を仲介する別の動物や昆虫などがいたのかは不明です。新型コロナウイルスはSARS-CoVと似たような性状を示しますが、Sタンパク質を構成するアミノ酸の配列上でSARS-CoVを含む他のコロナウイルスには見られない配列があります。その配列は、人の細胞に含まれるタンパク質分解酵素によって切断される部位です。この部位は高病原性鳥インフルエンザウイルスの表面タンパク質にも見られ、鶏に対して毒性を高めることが知られています。このタンパク質分解酵素の切断部位が、新型コロナウイルスの人に対する感染性や病毒性に関わっているのか不明です。

■新型コロナウイルスとSARS-CoVの性状比較
新型コロナウイルスはSARS-CoVと性状が似ています。感染から症状が出るまでの潜伏期間は新型コロナウイルスで1~14日(最も多いのは5日)、SARS-CoVで2~10日(平均5日)ですが、両ウイルスとももっと長い潜伏期間も見られることがあります。SARS-CoVの可能性があると判断された人の10~20%が呼吸不全など重症化しています。SARS-CoVの致死率は感染者の年齢で大きく異なり、24歳未満で1%未満、65歳以上で50%以上でした。新型コロナウイルスの致死率も高齢なほど上昇する傾向があります。SARS-CoVは子供にほとんど感染が見られませんが、新型コロナウイルスも10代以下の子供の感染は他の年代と比較してかなり少なくなっています。

■新型コロナウイルスの感染経路
感染経路は他のコロナウイルスと同様に、主に飛沫感染と接触感染です。患者の20%以上に下痢症状が見られます。患者の約3割が糞便でもウイルス遺伝子が陽性とする報告があり、SARS-CoVと同様に糞口感染する可能性があります。また、「エアロゾル感染」の可能性も指摘されています。エアロゾル感染は飛沫感染と空気感染の中間的な経路で、限られた空間を一定時間漂う粒子を介した感染経路です。病院の待合室やタクシーなど密閉された空間で、濃いエアロゾルに長い時間さらされることで起こりえます。

■新型コロナウイルス感染による症状
新型コロナウイルスに感染すると主に発熱のほか、咳、呼吸困難などの呼吸器症状を起こします。肺の奥にある肺胞と呼ばれる部分で炎症が起こり、酸素交換が減少します。また、においの感覚の消失、下痢、結膜炎、血栓、心臓の炎症、心筋梗塞、肝障害、腎障害・腎不全、脳炎も起こすことがあります。ウイルスは細胞をのっとることで、ウイルス自身を増やします。ウイルスは細胞内へ侵入するために、細胞表面にある受容体に結合します。新型コロナウイルスの受容体はSARS-CoVと同様で、「アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)」と言われています。しかし、新型コロナウイルスとACE2の結合はSARS-CoVよりもかなり強く、人への感染性の強さに関係しているのではないかと考えられています。ACE2は肺、咽頭、鼻腔粘膜、目の結膜、腸上皮細胞、血管内皮(血管内側の細胞)、心臓、肝臓、腎臓、脳などに存在します。感染初期および重症化によって見られる多くの症状が、ACE2が存在する部位へウイルスが直接感染すること、「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫の過剰反応により組織が障害されること、生じた血栓によって血管が詰まることで起こるものと考えられています。

4. ウイルスの増殖を抑える治療薬の候補

新型コロナウイルスに期待される治療薬の概要は、本学薬学部の山田浩教授の本企画講義で詳しく説明されています。私の講義では、ウイルスの増殖を直接抑える治療薬の候補について述べます。薬の名前には一般名と商品名がありますが、ここでは一般名を使用します。

■コロナウイルスの感染増殖のしくみ
コロナウイルスは、細胞上の受容体(新型コロナウイルスやSARS-CoVではACE2)に結合して細胞内へ侵入します。細胞の表面あるいは細胞の中で、細胞に含まれるタンパク質分解酵素がウイルスに作用すると細胞の膜とウイルスの膜が融合して、ウイルスの遺伝子が細胞内へ送られます。ウイルスは細胞をのっとり、ウイルスの遺伝子であるRNAやウイルスの部品となるタンパク質を生産します。ウイルスのRNAの生産には、ウイルスのRNAポリメラーゼと呼ばれる酵素を使用します。ウイルスのタンパク質は、ウイルスのタンパク質分解酵素によって切断されて感染性を持つウイルス粒子に成熟します。細胞内で作られたウイルス粒子が細胞外へ放出されるとき、細胞に含まれるタンパク質分解酵素を必要とする場合があります。抗ウイルス薬は、ウイルスの感染増殖のしくみの一部を阻害することで効果を発揮すると考えられます。

■RNAポリメラーゼ阻害剤
エボラ出血熱の治療薬として開発されてきた経緯をもつレムデシビル、新興・再興インフルエンザ感染症の治療薬として条件付きで国内承認されているファビピラビルは、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害してウイルス遺伝子のRNAの生産を抑制します。レムデシビルは2020年5月4日に国内承認申請され、5月7日に「SARS-CoV-2感染症」の治療薬として異例の早さで承認(特例承認)されました。しかし、レムデシビルの投与は現時点では原則、一定の条件を満たす重症患者に限られています。さらに、レムデシビルの投与には文書による同意が必要です。

■タンパク質分解酵素阻害剤
急性膵炎の治療薬として国内承認されているナファモスタットやカモスタットは、細胞のタンパク質分解酵素を阻害すると考えられ、ウイルスの細胞進入時の細胞の膜とウイルスの膜の融合を抑制します。ロピナビル/リトナビルはHIV感染症の治療薬で、HIVのタンパク質分解酵素を阻害してウイルス粒子の成熟を抑制します。新型コロナウイルスへの作用機構は明らかになっていませんが、ウイルスのタンパク質分解酵素を阻害しているものと期待されます。

5.コロナ後のSDGs的世界に向けて取るべき対応

「コロナ後」をどの時点に設定するかは難しいと思われます。かつてのSARS-CoVのように完全に終息するのか、現在のような流行が継続するのか、流行が一旦は収まってその後に季節性インフルエンザのように小さい流行を数か月あるいは数年おきに繰り返すのかは現時点では分かりません。世界中に感染拡大したウイルスを根絶することは、人類とウイルスの戦いの歴史から見ても成功例は天然痘ウイルスの一つのみで、完全に終息させることは困難と予想されます。そのためコロナ後の世界について「すべての人に健康と福祉を」を目標に、外出自粛や消毒などの個人・地域レベルの対応では無く、世界的に新型コロナウイルスと戦うことを前提に取るべき対応を考えます。

■ウイルス迅速診断薬の開発
インフルエンザは多くの医療現場にて数十分程度で診断でき、すぐに治療薬を投与することができます。ウイルスの治療薬があっても、多くの医療機関で容易に迅速に診断できなければ治療薬を有効に使用することはできません。新型コロナウイルスは急激に重症化することから、医療現場にて数十分程度で診断できれば、早期投与による治療効果も期待できます。新型コロナウイルスの迅速簡易診断薬の開発が重要と考えます。2020年5月13日に、新型コロナウイルスのタンパク質抗原を30分以内に簡易に検出する診断薬が承認されました。今後、さらに高感度な迅速簡易診断薬の開発が期待されます。

■軽症者の診断と治療薬の投与、予防的投与
感染者の約8割が無症状あるいは軽症のため、流行しやすい状況になっていると言えます。軽症者を迅速に診断して治療薬を投与することでウイルスの増殖を抑制し、感染拡大に大きな抑制効果をもたらすと思われます。レムデシビルの投与は原則、重症者に限定されていますが、将来、軽症者にも使用できる適応拡大や新薬開発が必要と考えます。また、医療従事者、濃厚接触者、基礎疾患・高齢などのハイリスク者への予防的投与も考えられます。

■国外の流行状況の把握と入国制限
国立感染症研究所が公開している新型コロナウイルスのゲノム分子疫学調査によると、国内流行は1月後半から中国経由のウイルスに由来し、2月末からヨーロッパ経由のウイルスに由来しています。国内流行が収まっても、海外の流行地域から新たにウイルスが持ち込まれ、国内流行が再度引き起こされる恐れがあります。海外の流行状況の監視や流行地域からの入国者の制限が重要と考えます。

■薬剤耐性ウイルスの監視
ウイルスに直接作用するタイプの治療薬は、薬剤耐性ウイルスの発生が心配されます。各治療薬に対して、薬剤耐性ウイルスの発生を世界規模で継続的に監視することが必要になってきます。

■ワクチンの開発
米、中、英、仏、日本などの企業・研究機関がワクチン開発を行っています。ただし、ワクチンの国内承認は治療薬の国内承認よりも時間を要すると思われます。ワクチンの接種者は治療薬の投与者よりも大人数になると予想されるため、ワクチンの安全性の確保が重要と考えます。公費負担によるワクチンの定期接種化で、免疫獲得者をできる限り多くすることで、国内流行を抑制あるいは終息に向かわせることが期待できます。

■ウイルスの性状を把握
新型コロナウイルスの性状は、まだ分かっていないことだらけです。例えば、再感染の可能性や再感染時の重症化、ワクチンの効果に影響するウイルス抗原性の変化、妊娠中の感染による胎児やその後の子供への影響、感染後の後遺症、感染による多くの症状の発生メカニズムなど挙げればきりがありません。新型コロナウイルスを多くの分野で研究して理解してくことで、具体的な対策が可能になってきます。


<本稿に関連する著作>
高橋忠伸(2019)「インフルエンザウイルスが結合するシアル酸分子種の機能解明とシアリダーゼを利用したウイルス検出技術の開発」Trends Glycosci. Glycotechnol. 31巻181号: SJ80-SJ82。
高橋忠伸、紅林佑希、大坪忠宗、池田 潔、南 彰、鈴木 隆(2018)「薬剤耐性インフルエンザの蛍光検出単離法」BIO Clinica 33巻3号: 38-44。
高橋忠伸(2016)「インフルエンザウイルスが結合する糖鎖分子の機能解明」ウイルス66巻1号: 101-116。


<著者紹介>
高橋 忠伸(たかはし・ただのぶ)
1976年生まれ。静岡県立大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。博士(薬学)。現在、静岡県立大学薬学部准教授。おもに、ウイルス感染症における糖鎖の機能解明と利用技術の開発を行う。主な受賞に日本糖質学会 奨励賞(2014)、長寿科学振興財団 長寿科学賞(2014)、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合 TOBIRA奨励賞(2015)、日本ウイルス学会 杉浦奨励賞(2015)、バイオインダストリー協会 化学・生物素材研究開発奨励賞(2016)など。

(2020年7月14日公開)


※毎週火曜日に公開する予定です。次回(第9回)は、吉田卓矢(食品栄養科学部助教)による「新型コロナウイルス感染症拡大による自粛生活中の運動と食生活について」を、7月21日に公開予定です。

ビデオ講義

YouTubeサイトで見る(外部サイトへリンク)

(2020年7月15日配信)

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