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第3回 新型コロナウイルス感染症の治療への期待と取るべき対策:臨床の立場から


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山田 浩
(薬学部 教授)

該当目標

ページ内目次


Webエッセイ

1 はじめに

今回のリレーエッセイでは医療薬学の臨床的観点から、SDGs的世界(SDGs目標3 「すべての人に健康と福祉を」)を見据えて、新型コロナウイルス感染症の治療への期待と取るべき対策について述べていきます。

2 パンデミックに拡がる新型コロナウイルス感染症

コロナウイルスは急性上気道炎(かぜ症候群:感冒とも呼ばれます)を引き起こす代表的なウイルスです。通常はインフルエンザの様な重症化はせず、いわゆる“普通感冒”として発症し、1週間程度で自然に治癒します。しかしウイルスが変異し重症化することが今までに起こっており、2002年の中国で発症した重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年サウジアラビアから発症した中東呼吸器症候群(MERS)、そして今回2019年末、中国武漢からパンデミックに世界中に拡がっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に続いています。
新型コロナウイルス感染症は潜伏期(感染から初発症状が出るまでの期間)が1~12.5日(多くは5~6日)と言われ、感染力が非常に強い感染症です。多く(80%)は軽症あるいは無症状ですが、高齢者や基礎疾患(糖尿病、心疾患、慢性呼吸器疾患など)を有すると重症肺炎を起こすリスクが高くなります。WHO(世界保健機関)によると、感染者の約15%が重症、3%が重篤(死亡)と報告されています。現在のところ有効な根本的な治療法はなく、ワクチンや治療薬の開発に大きな期待がかかっています。

3 新型コロナウイルスの感染様式と予防

新型コロナウイルスはRNA(リボ核酸)ウイルスに分類され、遺伝情報としてのRNA、それを包む膜(エンベロープ)と突起(スパイク)を持っています。自分自身では増殖ができないため、人の上気道(鼻や咽頭)、目などの粘膜に付着し細胞内に侵入し寄生することで感染し増殖していきます。 
感染経路は主に飛沫と接触によります。空気や経口による感染はないとされていますが、ライブハウスや多人数で行う宴会、イベント会場など閉鎖した空間で、近距離で多くの人が会話する環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染(エアロゾル感染)するリスクがあります。
そこで公衆衛生的な予防方法として、手洗い、アルコール消毒、咳エチケット、マスクの着用、うがい、人混みを避ける(social distance の確保、STAY HOMEの推奨)、3密(密閉・密集・密接)を避けるといった対応が採られています。
一方、重症患者に接する、あるいは診断のためにPCR検査を行う医療従事者においては、感染経路を断つ目的で、個人用防護具 (PPE: personal protective equipment)が用いられます。具体的には、ガウン、手袋、マスク、キャップ、 エプロン、シューカバー、フェイスシールド、ゴーグルなどで厳重に感染を防御します。

4 新型コロナウイルス感染症に対する治療の現状

新型コロナウイルス感染症に対する根本的な治療は、ワクチンと抗ウイルス薬ですが、現在のところ有効な治療法はないのが現状です。肺炎が重症化し生命に危険が生じた場合はICU(intensive care unit:集中治療室)管理、人工肺(ECMO: Extracorporeal membrane oxygenation)が必要となる患者もあり、早急に治療法の開発が切望されています。
ワクチンに関しては、米国、中国、ドイツで候補ワクチンが開発され臨床試験に着手し始めています。しかしワクチンの認可のためには、人における有効性と安全性が担保された上でのこととなりますので、日本で使用できる(厚生労働省が認可する)段階となるのは未だ1年位先の見通しとなっています。
治療薬としての新薬の開発に関しても、その開発は動物や細胞実験による候補薬の探索から始まり、人を対象とする臨床試験(治験)を段階的に行うプロセスが必要です。期待される新しい候補薬があっても、直ぐには患者に使用できません。そこで現在の動向は、既存の薬が新型コロナウイルスにも効果があるかを検討する(対象疾患の適応を拡大する)治験あるいは臨床研究の枠組みの中で試用するといった方法が主流となっています。

5 新型コロナウイルス感染症に期待される治療薬

表:新型コロナウイルス感染症に効果が期待される医薬品

■インフルエンザ治療薬
ファビピラビル(アビガン®)は日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬です。
RNAウイルスであるインフルエンザウイルスと同様RNAポリメラーゼを選択的に阻害し、新型コロナウイルスの増殖を抑制する働きがあることで治験が進行中です。副作用としては動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人及びパートナーには使用が禁忌となります。

■エボラ出血熱治療薬
レムデシビルはエボラ出血熱の治療に用いられるRNAポリメラーゼ阻害薬です。米国の治験で新型コロナウイルス感染症の回復を早める効果が示され、FDA(Food and Drug Administration:食品医薬品局)が緊急的使用を認めました。その後、日本でも急ピッチで特例承認の運びとなりました。ただし副作用として肝腎障害などがあり、使用上、厳重な注意が必要です。

■駆虫薬
イベルメクチン(ストロメクトール®)は駆虫薬(寄生虫治療薬)です。RNAウイルスにも効果があるとされ、新型コロナウイルスに対して臨床試験が進んでいます。

■気管支喘息治療薬
シクレソニドは気管支喘息の治療薬(吸入ステロイド薬)です。抗ウイルス活性を持つことが示され、新型コロナウイルスによる肺炎が改善した症例が報告されています。

■AIDS治療薬
ロピナビル/リトナビル(カレトラ®)は、AIDSの治療薬です。ロピナビルはウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬で、リトナビルはその血中濃度を維持し作用を増強させます。

■抗マラリア薬
ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬、皮膚エリテマトーデス/全身性エリテマトーデス治療薬です。心臓の副作用が報告されています。

■免疫抑制薬
トシリズマブ(アクテムラ®)はサイトカインの1種であるIL-6(インターロイキン-6)の働きを抑える抗体医薬(抗ヒトIL-6受容体抗体)です。重症患者に対する治療薬として期待されています。

■急性膵炎治療薬
ナファモスタットは、急性膵炎治療で使用されるタンパク分解酵素阻害薬です。
ウイルスの細胞内への侵入(膜癒合)を阻止する働きがあります。

6 コロナ後のSDGs的世界に向けて取るべき対応

現在、世界で直面している新型コロナウイルスの感染拡大は爆発的であり、今年3 月のイタリアやスペイン、フランス、イギリス、米国ニューヨーク州などでの医療崩壊は他人ごとではなく、日本においてもその危機は決して去ってはいない状況にあります。
日本は世界有数の長寿国であり高齢者人口が多いこと、それに対し人口あたりのICUベッド数が欧米諸国に比べ極端に少ないことが従来より指摘されています。ひとたび日本で感染爆発が起これば重症患者で救急医療および集中治療が飽和し、通常の医療を含めた医療資源が枯渇し、医療崩壊することは想像に難くありません。そうなった場合は、まさに命の選別を行わざるを得ない状況が考えられます。
コロナ後の(SDGs目標3 「すべての人に健康と福祉を」)を達成するためには、様々な課題が残されています。今回述べた新規治療法・治療薬の開発は第一に重要です。それと共に、パンデミックな感染拡大をいち早く察知あるいは予測し迅速に対応する医療現場と行政の(通信網を含めた)体制整備も必要です。更に、医療崩壊を防ぐための医療体制の充実、具体的にはICUベッド数の増床および緊急事態にも対応可能な医療従事者の育成と医療供給体制の適正化を推進する必要があると考えます。


<本稿に関連する著作>
山田浩(2011)「かぜ症候群」望月眞弓・武政文彦(編)『病態知識を基礎とした一般用医薬品販売ハンドブック』じほう: 60-64。
山田浩(2015)「EBMの実際」望月眞弓・山田浩(編)『医薬品情報学workbook』:朝倉書店: 148-154。
山田浩(2019)「現代社会における医薬品情報」折井孝男(編)『図解 医薬品情報学 改訂4版』:南山堂。

<著者紹介>
山田 浩(やまだ・ひろし)
1956年生まれ。自治医科大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。浜松医科大学医学部附属病院治験管理センター助教授を経て、現在、静岡県立大学薬学部教授(健康支援センター長兼務)。おもに、医薬品および食品の有効性ならびに安全性評価に関する臨床研究を行う。主要編著書に『日本臨床薬理学会認定CRC試験対策講座』(2009年、メディカル・パブリケーションズ社)、『生物統計・疫学・臨床研究デザインテキストブック』(共著、2018年、メディカル・パブリケーションズ社)など。



(2020年6月9日公開)

ビデオ講義

YouTubeサイトで見る(外部サイトへリンク)

(2020年6月30日配信)

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