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第9回 新型コロナウイルス感染症拡大による自粛生活中の運動と食生活について


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吉田 卓矢
(食品栄養科学部 助教)

該当目標

ページ内目次


Webエッセイ

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全国的な拡大により、これまでの生活よりも外出の機会が減り、活動量の低下や食生活の乱れが懸念されています。世界的な大流行(パンデミック)の中でも健康を維持するためには、運動したり、食事から十分な栄養素を摂取したりして健康を維持する必要があります。本エッセイでは、一般社団法人日本臨床栄養代謝学会による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言」[1]と国連食糧農業機関(FAO)が示す「COVID-19パンデミック中の健康な食生活を維持する方法」[2]から、一般の方にも重要と思われる自粛生活中の運動と食事について紹介します。

サルコペニアやフレイルにならないようにしましょう

緊急事態宣言中は、不要不急の外出の自粛によって自宅にいる時間が長くなった方が多いと思います。活動量の減少は、体重の増加、筋肉の減少、筋力の低下、免疫能の障害などにより健康状態を悪化させる要因となります[3]。特に高齢者では筋肉が痩せ細りやすく、サルコペニア(筋肉量と筋力の低下)やフレイル(心身の活力低下)になりやすいので注意が必要となります。
COVID-19は高齢者や基礎疾患を持っている方で重症化しやすく、死亡率が高いことが報告されていますが、その背景として、低栄養(栄養状態が悪い)やサルコペニアがあることが指摘されています。そのため、自粛生活の中でも活動量が低下しないように気を付けながら、食事から栄養素をしっかり摂って低栄養やサルコペニア、フレイルを予防することが大切となります。

自粛生活中も活動量を維持しましょう

活動量の低下はサルコペニアやフレイルのリスクであり、日本臨床栄養代謝学会の提言では、栄養状態の維持・改善とともに適度な運動を行うことが推奨されています。運動は、体操やヨガ、ウォーキングなどの軽度な運動でも良く、毎日30分あるいは二日毎に1時間ほど実施することが望まれます。また、運動を行う場所は、自宅や庭・公園などの人との接触の少ない外部で行い、できれば一人あるいは少数の家族とともに行うことが望ましく、ソーシャルディスタンシング(感染拡大を防ぐために物理的な距離をとること)を保持するため少なくとも人との間隔を2mは空けるようにします[4]。海外の研究ではジョギングやウォーキングでは排出された呼気が後方に流れるため、ジョギングでは10m、ウォーキングでは5mほど前後の間隔を空けてソーシャルディスタンシングを確保する必要があることが示唆されています。
また、世界保健機構(WHO)は、自粛生活中に活動量を保つためには週に150分の中等度の身体活動または75分の活発な身体活動もしくはそれらを組み合わせて活動量を維持することを推奨しています[5]。家庭でできることとしてダンス、子供と遊ぶこと、掃除やガーデニングなど短時間でもこまめに体を動かすことを紹介しています。また、オンラインを使ったエクササイズの教室を受講することも体を動かす方法として紹介されています。
このように、自粛生活中にも健康を維持するために身体を動かすことが推奨されていますが、注意するべき点があります。それは、普段から運動習慣がない方は決して無理をしないことです。急に運動すると身体を痛める恐れがありますので、まずは自分の体調を考慮してできる範囲の運動をするようにしましょう。
また、適度な運動は免疫力を向上させるために有効ですが、マラソンや強度の強い運動のように自分を追い込むトレーニングは免疫力を低下させることが報告されています[6]。これまで激しいトレーニングに打ち込んできた人も感染のリスクがある場合は無理をしないように注意が必要です。
基礎疾患がある方は運動についてかかりつけ医に相談して安全に行うようにしてください。

良好な栄養状態を保つ

栄養状態を良好に保つことは、ウイルス感染の有無にかかわらず重要です。感染症は体に負担をかけ、特にウイルス感染による発熱時には、体は通常よりも多くのエネルギーと栄養素を必要とします。したがって、普段から栄養状態を良好に保つために、健康的な食事を維持することが大切です。表1にFAOにより健康的な食生活のために奨励されている項目を示します。

表1.FAOにより健康な食事のために奨励されている項目
  • 重要な栄養素を摂取するために様々な食品を摂取しましょう。
  • 果物や野菜を沢山食べましょう。
  • 全粒穀物、種実類、健康的な油脂(オリーブ油、ゴマ、ピーナッツ油または不飽和脂肪酸を多く含む油)が豊富な食事を摂りましょう。
  • 脂質、砂糖、塩の摂りすぎに注意しましょう。
  • 食品衛生を良好に保ちましょう。
  • 定期的に水を摂取しましょう。
  • アルコールの摂取量は控えましょう。
FAOにより奨励されている健康な食事の内容の多くは、厚生労働省が策定している食生活指針にも示されていることから、日本人においても、これまで通り健康を意識した食生活を継続することが大切と言えます。これまでの食生活の中で、改善できそうな項目から見直し、一つずつ健康な食事に近づくことができれば良いと思います。

COVID-19を防ぐ食品や栄養補助食品はありますか?

残念ながらCOVID-19を防ぐ食品や栄養補助食品はありません。健康な食生活を保つことが身体の強力な免疫システムを維持するために重要となります。ビタミンやミネラルが免疫能の維持に重要な役割を担っていることは知られていますが、これらの栄養素を多く摂取することが新型コロナウイルスの予防に有効であるという科学的根拠はありません。

サルコペニアのリスクがある人は、たんぱく質を十分に摂りましょう

健康な食生活のためには、様々な食品からバランスよく栄養を摂取することが重要ですが、高齢者ではサルコペニアを予防するために、たんぱく質をしっかり摂ることも重要です。たんぱく質は筋肉の材料になる栄養素で、肉、魚、卵、牛乳、乳製品、大豆などに豊富に含まれています。
高齢者は、たんぱく質の摂取による筋肉のタンパク質合成の反応が成人に比べて低下していると言われています[7]。そのため、高齢者では筋肉量を維持するために、毎食しっかり摂る必要があります。また、食事をしっかり食べるためには、活動してエネルギーを消費し、お腹を空かせる必要があります。
運動と食事は、車の両輪の関係であるとよく例えられます。運動と食事のどちらが欠けてもサルコペニアのリスクが増加しますので、健康な食生活と運動はセットで考えましょう。

バランスの良い食事

一般的にバランスの良い食事とは、栄養の過不足がないことだと思われます。一日に必要なエネルギー及び栄養素の摂取量は、年齢・性別・活動量によって異なりますので、具体的に何をどれだけ食べると良いかを示すことは困難ですが、主食、主菜、副菜を揃えることでバランスの良い食事に近づけることが可能です。
主食は米飯、パン、麺類などの主にエネルギー源となる料理で、主菜は肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質を多く含む料理です。そして副菜は主に野菜、キノコ類、海藻を主とする料理でビタミン、ミネラル、食物繊維を摂ることができます。主食、主菜、副菜に用いる食材が毎食偏らないようにすると様々な食材を摂取することになりますので、栄養バランスも良くなります(図1)。
自分の適量を知るためには厚生労働省と農林水産省により作成された食事バランスガイドを参考にすることができます。
基礎疾患があり、食事制限をしている方はかかりつけ医や管理栄養士にご相談ください。

図1.バランスの良い食事の見本

感染予防が大切

身体の免疫力を良好に保つためには、食事と運動が大切であることは間違いありません。しかし、まずは感染予防をして新型コロナウイルスに感染しないことが大切です。そのため、パンデミック中には世界保健機構(WHO)や政府のアドバイスに従ってウイルス感染防止のために基本的な感染予防の実施(手洗いやマスクの着用)、不要不急の外出の自粛、密閉、密集、密接(三つの密)を避けることなどが推奨されます。

健康的な生活習慣は、一朝一夕で作られるわけではありませんので、習慣的な運動と健康な食生活を継続する必要があります。この自粛生活を機会にこれまでの生活習慣を見直し、健康について考えるのも良いかもしれません。早く新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き平穏な日々が戻ることが望まれます。


<引用文献>
[1] 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言
https://www.jspen.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/61ea499fbc091df8696f6619dc991187.pdf(外部サイトへリンク)
[2] Maintaining a healthy diet during the COVID-19 pandemic
http://www.fao.org/3/ca8380en/CA8380EN.pdf(外部サイトへリンク)
[3] Chen P, Mao L, Nassis GP, Harmer P, Ainsworth BE, Li F. Coronavirus disease (COVID-19): The need to maintain regular physical activity while taking precautions. J Sport Health Sci. 2020 Mar;9(2):103-104.
[4] Barazzoni R, Bischoff SC, Breda J, Wickramasinghe K, Krznaric Z, Nitzan D, Pirlich M, Singer P; endorsed by the ESPEN Council. ESPEN expert statements and practical guidance for nutritional management of individuals with SARS-CoV-2 infection. Clin Nutr. 2020 Mar 31.
[5] Stay physically active during self-quarantine (WHO)
http://www.euro.who.int/en/health-topics/health-emergencies/coronavirus-covid-19/technical-guidance/stay-physically-active-during-self-quarantine(外部サイトへリンク)
[6] Nieman DC, Johanssen LM, Lee JW, Arabatzis K. Infectious episodes in runners before and after the Los Angeles Marathon. J Sports Med Phys Fitness. 1990 Sep;30(3):316-28.
[7] Volpi E1, Mittendorfer B, Rasmussen BB, Wolfe RR. The response of muscle protein anabolism to combined hyperaminoacidemia and glucose-induced hyperinsulinemia is impaired in the elderly. J Clin Endocrinol Metab. 2000 Dec; 85(12):4481-4490.

<著者紹介>
吉田 卓矢(よしだ・たくや)
2008年 静岡県立大学生活健康科学研究科博士前期課程修了。博士(学術)。磐田市立総合病院 管理栄養士を経て2011年6月より静岡県立大学食品栄養科学部助教。臨床栄養学を専門とし、特に慢性腎臓病における運動と食事の効果について研究を行う。
(2020年7月21日公開)

ビデオ講義

YouTubeサイトで見る(外部サイトへリンク)

(2020年8月12日配信)

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