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静岡の大地(19)御殿場線をたどる(続き)地震活動の状況 2022年12月13日


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ライブカメラ富士山ビュー 365日ライブラリーの清水の記録より。365日ライブラリーでは、過去1年分の富士山を見ることができる。朝の7時すぎ、太陽に照らされる時刻であっても、日毎に富士山はまったく異なる姿を見せる。

 私のオフィスからも富士山が見えるが、毎日出勤するとまず富士山の姿を確かめてから仕事を始めるのが習慣になっている。雲の流れが速いので見ているうちに様子が変わる。前回のブログを書いた後、御殿場線沿線からの富士山を観察する機会を待ったが、天候と私の日程とが合うときがなくて、今のところ実現していない。そこで富士山のライブカメラの映像を借りて毎朝の富士の姿を紹介することにした。

2022年11月24日09時45分の学長室から見た富士山

 古来、富士山を描いた画家は葛飾北斎をはじめたくさんいる。近代では横山大観である。島根県安来市の足立美術館には、大観の初期から晩年に至るまでの作品が120点余り所蔵されていて、別名「大観美術館」と呼ばれる。私が毎日見ている富士山は、かなりの頻度で山頂の見えない富士山であるが、画家の描いた富士山は必ず山頂がある。

 富士は季語にも多く登場する。「初富士」は新春の季語で、元旦に富士山を眺めて詠む。「春の富士」は春の季語で、雪がまだ残る富士山を詠む。「富士の雪解」は夏の季語である。5月になると富士山も雪解けがすすみ、6月になると麓からは雪は見えなくなる。「五月富士」は夏の季語で、陰暦5月の富士山である。梅雨に入り、雪が消える。「夏富士」は夏の季語である。「赤富士」も夏の季語で、晩夏になると、東京方面から見る朝の富士山が赤く染まって見えるのを詠む。葛飾北斎が描いた「凱風快晴」も赤富士である。「富士垢離(ふじごり)」は夏の季語で、富士講の修験者が、富士山に登る前に行う水垢離である。「富士詣」も夏の季語で、陰暦6月1日から6月21日の間に、富士講をつくり富士山頂の富士権現社に参詣することを言う。「駒込富士詣」は夏の季語で、6月30日から7月2日にかけて行われる東京の駒込富士神社の山開きである。かつては土産の駒込茄子が名物で、周辺に鷹匠屋敷があった。「一富士二鷹三茄子」は、川柳〈駒込は一富士二鷹三茄子〉から広がっていったと言われる。「浅草富士詣」は夏の季語で、7月1日に、富士山の山開きに合わせて浅草浅間神社の例大祭が行われる。「富士の山洗」は秋の季語で、富士山麓で富士閉山の陰暦7月26日に降る雨を言う。「富士の初雪」は秋の季語である。9月中旬に雪が降る。「富士の笠雲」は冬の季語である。強い風が富士山にぶつかる時にできる笠のような雲で、笠雲が現れると天気が崩れる。「富士薊」は冬の季語で、キク科アザミ属の多年草である。富士山周辺に多い。

どの雲となく近づきて春の富士 廣瀬直人
この道の富士になり行く芒かな 河東碧梧桐
赤富士のぬうつと近き面構へ 富安風生
赤富士を蕎麦刈る人も立ちて見る 細見綾子

 富士の初冠雪とは、その年の山頂の1日の平均気温が最も高い「最高気温日」を観測して以降に、「山の全部または一部が、雪または白色に見える固形降水(雹など)で覆われている状態を下から初めて望観できたとき」と定められている。この富士山の初冠雪を観測して発表するのは甲府地方気象台である。だから麓や静岡県側から雪が見えても甲府地方気象台から見えていないと初冠雪は発表されない。以前は河口湖測候所も同様に観測、発表していたが、2003年9月に河口湖測候所の有人業務が終了して甲府地方気象台に一元化された。甲府気象台による初冠雪の平均日は10月2日、2021年の初冠雪観測日は9月28日であった。2022年9月30日(金)の富士山頂の最低気温は−2.4℃まで下がり、8時00分、富士山の初冠雪が発表された。平年よりも2日早く、昨年よりも2日遅い観測となった。これが確定するのは年が明けてからである。

 富士山の地下ではマグマ溜まりが活動している。大規模な噴火が起きた場合に流れ出す溶岩の量は従来想定のおよそ2倍の13億立方メートルに達すると推計され、火口周辺の山梨県富士吉田市や静岡県御殿場市だけでなく、北東に40キロ以上離れた山梨県上野原市や相模原市、南東側の神奈川県小田原市、南側の静岡市清水区など、3つの県の7市5町に到達すると言われている。

 小山真人氏(静岡大学防災総合センター教授)の解説から引用すると、富士山の宝永噴火は開始から終了までの16日間に、マグマ量に換算して7億立方メートルの火山灰を風下に降らせた。大規模で爆発的噴火だった。富士山が過去に起こした噴火は多種多様であり、必ずしも次の噴火が宝永噴火に類似するとは限らない。

 富士山に起こる別種の大規模災害として「山体崩壊」がある。文字通り山体の一部が麓に向かって一気に崩れる現象である。最新のものは2900年前に東側の御殿場を襲った「御殿場岩屑なだれ」がある。そのときの土砂の量は、宝永噴火を上回る約18億立方メートルであった。

富士山噴火による溶岩流の到達可能性


富士山の山体崩壊による被災者数の予想 巽好幸による。

 富士山の手前、つまり沼津側に愛鷹山がある。40万年ほど前から愛鷹山や小御岳(こみたけ)や箱根山などの火山が噴火を始め,大量の土砂を地表にもたらし始めた。10万年ほど前、小御岳と愛鷹山の間で新しい火山が噴火を始め、富士山の誕生となった。富士山は、10万年ほど前に誕生した火山で、富士山誕生以前の50万年前くらいの時点での駿河湾は今よりずっと奥が深い湾で、海岸線も今の位置よりずっと北にあった。現在の富士山の地下には、かつての駿河湾の一部が隠れている。その後駿河湾を埋め立て、今ある富士山麓の広大な平坦地を作り出した。小さな火山であった富士山は噴火のたびに成長し、小御岳の大部分と愛鷹山の北半分を埋めて、それらよりも高くそびえ立つ立派な火山に成長した。

 日本の多くの火山の寿命は50万年から100万年と長いものであり、まだ10万年の富士山は若い元気な火山と言える。その他、静岡県と周辺の活火山の分布を地図に示す。

静岡県と周辺の活火山

 静岡県地域の地震分布については、静岡県立大学グローバル地域センターの自然災害部門の研究会で議論している。そこでの議論のために用意した地震の資料からいくつか以下に紹介したい。まず歴史地震資料から描いた静岡県とその周辺に発生した大規模な地震の分布図である。静岡県内で目立つ活断層は伊豆半島にある丹那断層だけであるが、周辺にはいくつかの活断層があり、歴史上には被害を起こした地震も知られている。

静岡県と周辺の歴史上の大規模な地震。マグニチュード6以上の浅い地震。

 丹那断層に発生した浅い大規模地震は、歴史上2回記録されている。1つは「伊豆国地震」で承和8年5月3日以前(841年前半)の地震、もう1つは「北伊豆地震」で1930年(昭和5年)11月26日早朝の地震である。この地震のことについては尾池が京都新聞に書いたエッセイを参照してほしい。

 静岡県とその周辺に日常的に発生している小さな規模の浅い地震を観察すると、地下で起こっている現象を少しは知ることができる。そのようなことを研究しながら地下の出来事を地表から上の気象情報と同じように一般の市民に分かるように解説する仕組みが日本には必要であると私は考えている。そのことに関しては、地震火山庁の設置と地震火山予報士の制度化が必要であるとしてすでに提言がまとめられており、それを説明するための動画も作成されている。いずれもウェブサイト(5、6)を参照してほしい。

 21世紀に入ってから最近までの地震分布図を観察して気づいた富士山の地下の地震活動について、具体的なことを書いておきたい。重要なことは2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響で富士山の地下の群発地震が急激に増え始めたということである。このことが何を意味しているかを、若い研究者たちにぜひ解き明かしてほしいと思う。

図1:微小地震分布(上) マグニチュード0.5以上の浅い地震
ピンク:深さ15-30km  赤:深さ0-15km
枠で囲んだ地域が富士山の地域


上の図1の枠で囲んだ地域の微小地震の数の変化(積算)
縦軸は地震数0-3000個  2011年3月11日以後増え方が加速している。(クリックすると拡大します)

 この図に示されているのはマグニチュード0.5以上という規模の小さい地震の分布であって、ほとんどが地表から測って10kmよりも深い場所で起こっている。このような微小地震の群が活火山の下のマグマ溜りには日常的に起こっており、その分布を見ていると、どんどん浅いところへ分布が移動してくるようなことがあると噴火の前兆である可能性があるので注目することになる。富士山の地下では、ときどきこのような微小地震以外にもゆっくり揺れる長周期の地震波を発生する現象が知られている。この低周波地震現象も注目しながら研究が行われている。

 活火山以外の地域では微小地震の分布は活断層に沿って細長く分布する場合や最近大規模な地震の起こった断層に沿ってまだ余震が続いている場合などがある。それらについても地域ごとの特徴を調べることが重要である。静岡県とその周辺では、あちらこちらの地震の分布で2011年東北地方太平洋沖地震の影響でその直後に微小地震が増えた場所はいくつかあるが、それらのほとんどの地域では微小地震の増加する現象はその時だけであった。ただし1か所だけ富士山の場合と同じように、2011年東北地方太平洋沖地震の前に比べて微小地震の増え方が変化して急激に増え続けている地域があり、それが南アルプスの活断層帯である。そのデータを図に示しておく。このことがどのような意味を持つかも、若い地震研究者たちにぜひ解き明かしてほしいと私は思っている。

 このような現象についても尾池が新聞に書いたエッセイを参考にしていただけると幸いである。

図2:微小地震分布(上) マグニチュード0.5以上の浅い地震
ピンク:深さ15-30km  赤:深さ0-15km
枠で囲んだ地域が南アルプス地域

上の図2の枠で囲んだ地域の微小地震の数の変化(積算)
縦軸は地震数0-6000個  2011年3月11日以後増え方が加速している。

尾池和夫



参考文献とウェブサイト
  1. 藤井敏嗣「富士山の地下構造とマグマ」
    http://www.kazan-g.sakura.ne.jp/J/koukai/04/2.pdf
  2. 小山真人「富士山の山体崩壊 首都圏への影響、「北東」が最大」
    https://sakuya.vulcania.jp/koyama/public_html/Fuji/tokyoshinbun121031.html
  3. 尾池和夫:京都新聞「天眼」2022年11月13日(日曜日)南から来た火山の贈りもの
    https://ameblo.jp/catfish69/entry-12776647297.html
  4. 尾池和夫:京都新聞「天眼」第30回 2020年7月26日 トンネルと水と地震と
    https://ameblo.jp/catfish69/entry-12699525108.html
    ※移動先のページで第30回までスクロールしてください
  5. 関西サイエンスフォーラム(提言) 地震火山庁の設置と地震火山予報士の制度化
    http://kansai-science-forum.org/jishin.html
  6. 未来の地震火山庁から届いたメッセージ。-2020年度1年生Ausdruck(アウストローク)の挑戦!
    https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/844

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