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静岡の大地(23)草薙神社と龍勢(流星) 2023年9月29日


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 2023年9月23日、祝日の土曜日であるが、朝から草薙キャンパスでは修士課程の入学試験がある。入学試験の開始の挨拶をして欠席者などの確認の後、小鹿キャンパスに移動、短期大学の認証評価現地調査の2日目の全体面談に出席した。また、草薙キャンパスに移動し、夕方、国際交流室の山口さん、高橋さんたちと一緒に宮原さんの案内で草薙神社へ向かった。ちょうど、この日が大龍勢(流星)打ち上げの日で、仕事が一段落した後であり、しかも幸い天候は曇りで、念願の龍勢を見ることができるという、またとない機会となった。

草薙大龍勢のポスター

 静岡県立大学の草薙キャンパスは広いので、私のいるはばたき棟の学長室を起点として測ると、草薙神社から真西へ、地図上で500メートルほどの所に位置している。しかし、けっこう急斜面の道路がくねくねと入り組んでいるので、車でもかなり走らないと行けない距離感である。17時45分に大学を出て、その道を通り、途中の「全面通行止」と書いた看板を見ながら、ダッシュボードにあらかじめ頂いている「通行証」を置いて、18時に草薙神社近くの駐車場に着いた。駐車場には静岡市長や県副知事のための駐車スペースも確保されている。昼間はその方たちも、また酒井敏副学長も来ていたという。広場にはすでにたくさんの人が集まっている。
 並ぶテントの中央に「本部」という掲示があり、その右手の方に大学職員の小山さんがいて手を振ってくれる。挨拶して中に入っていくとすぐ、左手に草薙商店会の人たちによる生ビールの店ができている。その前の行列に、一般社団法人草薙カルテッドの事務を担当している西美有紀さんが並んでいて、「学長!」と声をかけてきた。「お、ビール?」 「はい、無事に打ち上がったので、やっと飲める」という。彼女も、龍勢のグループの1つに、研修を受けて参加させてもらい、初めて火薬に触ったという。その「大龍勢」の打ち上げを、昼の部で無事に終えたから、いよいよ生ビールを片手に、夜の部を見るのだという。

会場の様子

 その日の昼の部は、酒井副学長の提供による写真で、様子を知ることができた。夜は花火のスタイルで打ち上げを見ることになるが、昼は打ち上げとともに空に展開する煙を見ることになる。しかし、打ち上げに伴うさまざまな行事の様子が太陽の光の下で見られるのがいい。草薙龍勢花火実行委員会の実行委員長は山田裕彦さん、草薙神社龍勢保存会会長は増田正彦さんである。静岡市長の難波喬司さんも櫓の上から挨拶した。

昼の龍勢の打ち上げ。酒井敏副学長による

 龍勢は、竹竿に火薬噴射筒をつけて打ち上げる、いわばロケット式花火である。花火の先に落下傘や変化筒などの仕掛けを仕込む。それらがうまく次々に発火して飛ぶ。今、静岡県では、この草薙地区と藤枝市の朝比奈地区の2か所で伝承されている。

 龍勢は戦国時代の狼煙に起源があると言われる。江戸時代には駿府周辺の村落でも狼煙型の花火が打ち上げられていたことが知られている。水不足になることが多かった有度山周辺の人びとの雨乞いの信仰と結びついて草薙神社にも伝わったと考えられる。

 龍勢花火は、昼打ちの「龍勢」と、夜打ちの「流星」がある。それぞれの流派が知恵を絞って作り上げた煙と光の妙技で見る人を魅了する。私たちは夜打の流星を見る。小山さんは本部のテントの放送席でマイクの前にいる。この日、その美声で場内放送をボランティアで受け持っている。「それでは今から、いよいよ・・」と小山さんの声が山間の広場に響く。大龍勢の提供者の紹介があり、予告の花火が打ち上げられ、櫓の上の法被姿の人たちからの口上がある。長く伝わる伝統の口上である。
太鼓とともに、1発目が打ち上げられる。天空に見事に花開いてパラシュートに乗った光の余韻が夜空に漂う。それとともに拍手が起こる。「万歳」の声が上がる。打ち上げの成功である。

流星の打ち上げ成功と、戻って来た竹竿。宮原亜砂美さん提供

本部放送席の小山さんと広場の櫓

 地元の龍勢保存会の方たちが来て説明してくれる。草薙カルテッドの共同代表で、株式会社県大文化通信代表取締役の山本洋平さんが法被姿で現れて、「いやー、大成功を見てもらえて、よかったー」という。満面でうれしそうである。打ち上げ成功はほぼ半分だという。消防団の方たちが花火殻の回収まで見届けて合図を送ると、2発目が小山さんのアナウンスで始まる。2発目も大成功。「万歳!」の声と拍手が起こる。3発目は残念で、「また、来年を狙いましょう」とアナウンスがあり、やはり拍手である。うまく打ち上がらなかったものは畑に落ちて、後の回収がたいへんだと、保存会の方が教えてくれる。

写真左:増田正彦草薙神社龍勢保存会会長(筆者の隣)と秋本健草薙龍勢実行委員会事務部長
写真右:山本洋平株式会社県大文化通信代表取締役

 ややあって、4発目。これも大成功だった。大きな拍手で無事に流星の打ち上げは終了した。その後、恒例の花火である。駐車場まで戻って見上げると真上にまで花火殻がただよう大花火の連発である。声と拍手があちらこちらで起こる。終了のアナウンスを聞きながら、帰途についたが、地元の方たちも歩道に沿って帰途についていた。たくさんの子どもたちも、お年寄りたちもいた。少し暗くなった道を歩いて帰途につく人たちが皆、とてもいい笑顔を浮かべているのが印象に残った。

龍勢打ち上げの最後を飾る打ち上げ花火


 草薙神社は、今年は1900年記念祭を行った。去る9月20日に祭があった。近所に住む丹羽康夫さんからそのときの写真をいただいた。草薙神社は静岡市内の古い神社の1つとして、氏子をはじめとして人びとに親しまれる神社で、2023(令和5)年、創建1900年を迎えた。日本武尊が東国の蝦夷を平定するために吾嬬国に赴く途中、賊が原野に火を放って日本武尊を焼き殺そうとした。日本武尊は出発の折に伊勢の神宮へ参拝し、おばの倭姫命より頂いた剣を抜いて「遠かたや、しけきかもと、をやい鎌の」と鎌で打ち払うように唱え、剣を振り、草を薙ぎ払ったところで手打石により火をつけた。その火は賊の方へなびき、日本武尊は難を切り抜けた。それが草薙の地名の由来である。

草薙神社1900年記念祭の奉納神楽。丹羽康夫さんによる。

 大龍勢は草薙神社の伝統行事の1つである。地元にしっかりと根付いた保存会があって、その行事の伝統を守っている。毎年、創建を祝う神事が9月20日に行われ、静岡県無形民俗文化財に指定されている「草薙神社龍勢花火」の打ち上げが、この例大祭の日近くの休日に行われる。神社の例大祭を祝い、元禄年間(江戸時代)より打ち上げの奉納が続いて今に至っている。

 コロナウイルス感染防止で昨年は、昼の龍勢花火のみの縮小開催であったが、今年は特に「草薙神社創建1900年」を祝うと共に、「地域の大切な宝である草薙神社龍勢花火の文化の継承と技術の伝承」を目的として、昼の龍勢と夜の流星を打ち上げた。静岡市立清水有度第一小学校、清水有度第二小学校の5年生たちが、総合的な学習の時間を使って、当日の落下傘をつくった。昼は、打ち上げ前の呼出を行ってもらった。

 この行事には、静岡県、静岡市、静岡市教育委員会、清水警察署、清水消防署、地域の人びと、学区、企業、商店、周辺農地の皆さんや団体などからの支援と協力もあると、草薙神社龍勢保存会第13代会長の増田正彦氏は言う。

 龍勢花火打ち上げの場所の付近は、土地改良農地(ほぼ全面)と有度山農免道路である。龍勢花火打ち上げ場所より半径300m以内は立ち入り禁止となる。当日は、消防署員、消防団員、警察官、中部電力職員、龍勢保存会員(安全講習許可証持参)、静玉屋の花火師、警備員、許可を得た報道の方たちを除いて、立ち入りが禁止される。緊急車両(消防車、救急車)、花火師の車両以外は通行禁止である。馬走方面からの日本平へ、また、日本平から馬走方面へのハイキングコースも通行できなくなる。

国指定文化財データベースより 静岡市より


 大龍勢の打ち上げまでのことを取材してみた。

2018年のポスター

2018年10月20日、戦国時代の狼煙が起源と言われる龍勢の伝統の保存会が、静岡県藤枝市(朝比奈地区)、静岡市清水区草薙、滋賀県米原市、茨城県つくば市、埼玉県秩父市の五か所にある。その5つの保存会が集まって「全国龍勢サミット」が静岡県藤枝市で開催された。いずれも真っ直ぐ飛ぶために尾が修正され、推進力を送り続ける点ではロケットそのものである。
 草薙の龍勢花火は、1か月ほど前から13組ある流派ごとに準備が始まる。昼打ちの「龍勢」と、夜打ちの「流星」があり、それぞれの流派が知恵を絞って作り上げた煙と光の妙技が見る者を魅了する。

 この祭りでは、ロケットの中から次々と繰り出す変化(へんげ)の面白さだけでなく、その完成度に一喜一憂する各流派の人々の姿も印象的である。残暑厳しい季節、今年はどんな趣向を凝らそうかと思案しながら、夢中になって火薬を詰める作業が行われ、仲間意識が高まる。苦労を重ねた花火の打ち上げが、大成功したときの喜びあう姿、惜しくも失敗して肩を落として観覧席へ戻ってくる姿、いずれもが祭の感動を呼ぶドラマである。

龍勢を仕込む作業(上)と当日の設営(下)。西美有紀さん提供。

 龍勢花火の製作工程は、吹き竹、尾竹を探す、吹き竹の加工と乾燥、補強、尾竹の加工と乾燥、頭づくり、落下傘づくり、変化筒、ひごの加工、火薬のしめし、吹き詰め、キリもみ、当日の組み立てという順序である。最後に紅白の袋をかぶせ、拝殿前に配置する。

 当日、組み終え完成した龍勢は、一度本殿前に並ベられる。その後、木遣り隊のメンバーや各支部の旗を持った若衆、有度第一小学校、有度第二小学校5年生による木遣り道中が、JR草薙駅から草薙神社に向けて木遣り唄を披露して歩く。一同が神社に着くと、最後に先綱音頭を披露する。神主によって安全祈願、清めのお祓いがあり、龍勢は各流派の若衆によって山に運ばれる。打ち上げは、長い尾の先端が地面に着かないよう、高さ20mの櫓を組み立てる。鉄骨を組み、最上部の柱に横棒を出し、龍勢を滑車で引き上げ、横棒に掛ける。

 観覧席に設置した口上櫓で、番付に従って「呼び出し」と「口上」が述べられる。流派を名乗り、龍勢の名前、家内安全、商売繁盛、国の安寧、健康長寿など、呼び上げられる。

 東西 東西 ここに掛けおく 龍の次第は 霊峰富士を望む有度山
 ふもとに高き神社の社 祭典祝して昇る龍 雄々しく輝く龍の舞
 音と光と変化の彩り 社に集う人々の 心をついで 平和な未来の花と咲く
 支部の願いを込めて 当初
 草薙神社にご奉納 ご奉納
 (草薙奥支部の口上より)


 草薙カルテッドの西美有紀さんは今年、龍勢を仕込む作業から参加させてもらった貴重な体験をした。当日の打ち上げまで参加して素晴らしい数か月の体験だった。この日に向けて、草薙カルテッドの方たちは初めての試みとして、クラウドファンディングを提案し、草薙商店会の方たちとの議論を重ねて実現の運びとなった。「今年は草薙神社『創建1900年』の節目です。草薙商店会の龍勢打ち上げをこれまで見たことがないくらい盛り上げたい。ご支援者様にも手作り花火『龍勢』の面白さを直に感じてもらえるような企画を、草薙商店会の仲間となって一緒に打ち上げ成功を祈る気持ちになれるようなリターンを準備しました」として協力を呼びかけ、目標を達成した。

 2023年度の龍勢の昼打ちの部「龍勢」の12本のうちの12番が、草薙商店会が献発した龍勢で、「”次世代につながる選ばれる街へ”草薙商店会大龍勢」という口上である。製造は草薙西支部「太極流」である。口上は、各流派の龍勢の特徴、スポンサーの宣伝を唄い上げる。最後に打ち上げ成功の願いを込めて、打ち上げの合図である「草薙神社の御前に御奉納」を発射台に向けて声を張り上げた。

2023年度の龍勢(流星)の番付
(クリックすると拡大します)


 この日、朝から修士課程の入試、短期大学の認証評価の面談、執筆、龍勢(流星)の見学と忙しい1日を堪能した。

いつもの草薙神社。参詣の人たちが数人いて、弓道場では若者たちが弓の練習をしていた。2023年5月25日木曜日、筆者撮影。


大学評価終へ龍勢を秋の夕   和夫
ひと雨の明け一斉に曼珠沙華
草薙神社千九百年秋うらら
花火殻落ち来し先の虫のこゑ

尾池和夫



草薙神社
https://kusanagijinjya.jp/

草薙神社龍勢保存会
https://kusanagiryusei.com/

草薙神社龍勢保存会明神流
https://kusanagioku2.jimdofree.com/

一般社団法人草薙カルテッド
https://kusanagiculted.or.jp/

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