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脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎の原因を解明(共同プレスリリース)


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国立大学法人 神戸大学
静岡県公立大学法人 静岡県立大学


神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の細川友誠研究員、小川渉教授と、本学大学院薬食生命科学総合学府栄養生理学研究室の細岡哲也准教授(神戸大学大学院医学研究科客員准教授)らの研究グループは、脂肪組織においてインスリンが効かないことが、脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎の原因となることを解明しました。

非アルコール性脂肪肝炎は、肝硬変や肝がんなどの重篤な疾患に進行することのある慢性肝疾患ですが、その原因は解明されておらず、十分に有効な治療法も開発されていません。研究グループは、脂肪組織においてインスリンが効かない状態が、肝臓の炎症や線維化(注1)を悪化させることで非アルコール性脂肪肝炎を進展させることをマウスを用いた研究により明らかにしました。
非アルコール性脂肪肝炎は、肥満者に高率に合併しますが、肥満のないやせ型の人にも認められることが知られています。今回明らかとなったメカニズムは、肥満のないやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の原因として重要であることが考えられます。今回の研究成果により、非アルコール性脂肪肝炎の原因の一端が明らかとなり、本疾患に対する新しい治療法の開発に繋がることが期待されます。

この研究成果は、5月23日に、米国肝臓学会学会誌「Hepatology Communications」にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 脂肪組織でインスリンの効きが悪いと、肝臓の炎症と線維化が促進され、非アルコール性脂肪肝炎が悪化することを明らかにしました。
  • アジア人で多く報告されている肥満のない人の非アルコール性脂肪肝炎の原因は不明ですが、脂肪組織でインスリンの効きが悪いことがこの疾患の病態に関与する可能性が考えられます。
  • 脂肪組織でインスリンの効きが悪いと、脂肪組織から分泌されて肝臓に作用するアディポカイン(注2)と呼ばれるタンパクの量が変化することが明らかとなりました。このアディポカインを標的とすることで非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法の開発に繋がる可能性があります。

研究の背景

脂肪肝(脂肪性肝疾患)は、肝臓に脂肪が多く蓄積した状態ですが、脂肪肝のうち飲酒量が多くないにもかかわらず認められるものを非アルコール性脂肪性肝疾患といいます。非アルコール性脂肪性肝疾患の多くは、進行することは稀ですが、10-20%は非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれ、肝硬変や肝がんなどの重篤な病態に進行する場合があることが知られています。非アルコール性脂肪肝炎の有病者数は、日本において200~300万人、全世界では数億人とされており、今後も増加すると見込まれています。

非アルコール性脂肪肝炎の原因に関して、遺伝的要因に加えて肥満が重要な要因と考えられています。実際、肥満者において高率に非アルコール性脂肪肝炎を合併することが知られています。一方、肥満のない標準体重の人あるいは標準体重以下の人でも非アルコール性脂肪性肝疾患やその重症型である非アルコール性脂肪肝炎が認められることが特にアジア人を対象とした研究において報告されています。このようなことから推測されるように、非アルコール性脂肪肝炎の原因は単一ではなくさまざまな要因が複合的に関与するものと考えられていますが、非アルコール性脂肪肝炎の原因については十分に解明されていません。

今回、研究グループは、脂肪組織でインスリンが効きにくいことによって肝臓の炎症や線維化が悪化し、非アルコール性脂肪肝炎が進行することを明らかにしました。このような脂肪組織におけるインスリンの効きにくさは、とりわけ、アジア人で多く報告されているやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の原因として重要であるものと推定されます。

研究の内容

インスリンは代謝を整える重要なホルモンですが、インスリンが効きにくい状態になると糖尿病をはじめとする代謝性疾患が発症・進展すると考えられています。このようなインスリンが効きにくい状態を「インスリン抵抗性」といいます。インスリンの代謝作用はPDK1と呼ばれるタンパクの働きによって仲介されており、PDK1が働かないようにした細胞や組織では、インスリンが効かなくなります。研究グループは、脂肪組織でPDK1が働かないようにしたマウス(脂肪組織インスリン抵抗性マウス)にGAN食と呼ばれる脂肪・コレステロール・フルクトース(注3)を過剰に含む飼料を16週間投与し、食事因子と脂肪組織インスリン抵抗性が、非アルコール性脂肪肝炎の進展にどのように影響するかを検討しました。

通常マウスをGAN食で飼育すると、通常食で飼育した場合と比べて、肝臓において炎症や線維化に関わる遺伝子の量が増加しました。一方、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスにGAN食を投与すると、通常マウスをGAN食で飼育した場合と比べ、肝臓の炎症や線維化に関わる遺伝子の量がさらに増加し、非アルコール性脂肪肝炎が進行しました。この結果から、脂肪組織のインスリン抵抗性は、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース食によって誘導される炎症と線維化をさらに悪化させることにより肝病変を進展させることが明らかとなりました(図1)。

図1

また、GAN食を摂取した脂肪組織インスリン抵抗性マウスは、肥満を来さないことから、脂肪組織インスリン抵抗性は、アジア人で多く報告されている肥満を伴わないやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の原因に関連するものと考えられました。

インスリンは、本来、脂肪組織において余剰な栄養を脂肪として蓄える働きがありますが、脂肪組織でインスリン抵抗性があると、脂肪組織に脂肪を蓄えることができず、脂肪組織から肝臓に遊離脂肪酸が流れ込むことになります。この結果、肝臓の脂肪沈着やその後の炎症、線維化が促進されることで非アルコール性脂肪肝炎が進展すると考えられます。脂肪組織のインスリン抵抗性が肝臓の炎症と線維化を悪化させるもう一つのメカニズムとして、脂肪組織から分泌され全身の臓器に作用を及ぼすアディポカインと呼ばれる因子の関与が考えられます。今回、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスの脂肪組織において、90種類以上のアディポカインの量が変化することを見出しました。脂肪組織のインスリン抵抗性によって、量が変化したアディポカインが肝臓に働くことで、肝臓の炎症や線維化が促進される可能性が想定されます(図2)。

図2

今後の展開

脂肪組織のインスリン抵抗性は、肝臓の炎症と線維化を促進することにより、非アルコール性脂肪肝炎を悪化させることが明らかとなりました。このようなメカニズムは、特にやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の病態に関与するものと考えられます。今回同定した、脂肪組織のインスリン抵抗性によって量が変化するアディポカインの量あるいは作用を調節することができれば、非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法の開発に繋がるものと期待されます。

用語解説

(注1) 非アルコール性脂肪肝炎の病理組織上の特徴として、肝臓への脂肪の蓄積(脂肪沈着)、炎症に関わる細胞の浸潤、肝臓の細胞の損傷(肝細胞バルーニング)、線維化が挙げられる。特に肝臓の線維化の程度は肝臓の予後に関連することが示されている。

(注2) 脂肪細胞から分泌される生体の生命活動や生理機能の維持および調節にかかわるタンパク質。代表的なアディポカインとして、アディポネクチン、レプチン、TNFα、MCP1などが知られている。アディポネクチンはインスリンの効きをよくし、血糖や脂質の代謝を高める。レプチンは脳に作用して食欲の抑制に働く。一方、TNFαやMCP1は、炎症を進めることにより代謝調節に悪い作用をもつと考えられている。

(注3) 糖の一種。果物やハチミツなどにも含まれているが、摂取量の多くはコーラやジュース、お菓子などの加工食品からであることが知られている。

論文情報

タイトル
“Adipose tissue insulin resistance exacerbates liver inflammation and fibrosis in a diet-induced NASH model”
DOI:10.1097/HC9.0000000000000161
https://journals.lww.com/hepcomm/Fulltext/2023/06010/Adipose_tissue_insulin_resistance_exacerbates.20.aspx(外部サイトへリンク)

著者
Yusei Hosokawa1, Tetsuya Hosooka1.2*, Makoto Imamori1, Kanji Yamaguchi3, Yoshito Itoh3, Wataru Ogawa1
  1. 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学
  2. 静岡県立大学食品栄養科学部栄養生命科学科栄養生理学研究室
  3. 京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器内科学
*責任著者

掲載誌
Hepatology Communications

お問い合わせ

栄養生理学研究室准教授 細岡哲也
E-mail: thosooka@u-shizuoka-ken.ac.jp

(2023年5月25日)

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