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脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎に対する腸内細菌代謝物の効果とメカニズムを解明


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静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府栄養生理学研究室の細岡哲也准教授、伊美友紀子助教、笠原南々帆大学院生らの研究グループは、Lactobacillus に代表される乳酸菌などの腸内細菌によって食事脂質由来のリノール酸から産生されるHYA (10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid)と呼ばれる代謝物が、脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎を改善することをマウスを用いた研究により明らかにしました。
非アルコール性脂肪肝炎は、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧症などに高率に合併し、肝硬変や肝がんに進行することのある予後不良の慢性肝疾患です。本疾患の有病者数は、国内において200~300万人と推定されておりますが、現在まで非アルコール性脂肪肝炎の治療薬として承認された薬剤はありません。研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎に対して一定の効果を持つことが知られている2型糖尿病治療薬ピオグリタゾンが腸内細菌叢におけるLactobacillus を増加させることにより、マウス組織中のHYA量を増加させることを見出しました。さらに、高脂肪食を長期摂取することによって生じる非アルコール性脂肪肝炎がHYAの投与によって改善すること、さらに、そのメカニズムとして肝臓の線維化に重要な役割を担う肝星細胞(注1)の活性化をHYAが抑制することを解明しました。
非アルコール性脂肪肝炎において認められる病理組織像のうち、肝臓の線維化の程度は予後の悪化と最も強く関連することが知られています。腸内細菌代謝物であるHYAは、肝臓の線維化を抑制することにより非アルコール性脂肪肝炎に対する新しい治療法を提供する可能性が期待されます。
この研究成果は、科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版(11月3日付)に掲載されました。

ポイント

  • Lactobacillus に代表される乳酸菌などの腸内細菌によって食事脂質由来のリノール酸(注2)から産生される腸内細菌代謝物HYAが非アルコール性脂肪肝炎を改善することを明らかにしました。
  • HYAは肝臓の線維化に重要な役割を担う肝星細胞の活性化を抑制することで、肝臓の線維化を改善しました。
  • 非アルコール性脂肪肝炎において認められる病理組織像のうち、肝臓の線維化の程度が予後の悪化と最も強く相関することが知られています。HYAは、肝臓の線維化を改善することにより、非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法を提供する可能性が期待されます。

研究の背景

肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態を脂肪肝といい、飲酒量が多くないにもかかわらず認められる脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患と呼びます。非アルコール性脂肪性肝疾患の多くは進行することは稀ですが、10-20%は非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれ、肝硬変や肝がんへと進行する可能性のある予後不良の疾患であることが知られています。非アルコール性脂肪肝炎の有病者数は、日本において200~300万人、全世界では数億人と推定されており、今後も増加すると見込まれています。
非アルコール性脂肪肝炎の発症には、遺伝的背景に加え肥満の有無が重要な要因となると考えられています。肥満の改善が、非アルコール性脂肪肝炎を改善させることが報告されていますが、食事や運動療法のみで体重を減量し維持することは必ずしも容易ではありません。また一方で、肥満のない標準体重の人においても非アルコール性脂肪性肝疾患や非アルコール性脂肪肝炎が認められることが報告されています。しかしながら、現在まで非アルコール性脂肪肝炎に対して承認された薬剤はなく、新規治療法の開発が期待されています。

研究の内容

研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎に対して一定の効果を有することが知られている糖尿病治療薬ピオグリタゾンに着目しました。そして、肥満糖尿病マウスにピオグリタゾンを投与すると、腸内細菌叢におけるLactobacillus が増加し、この結果、Lactobacillus によってリノール酸から産生されるHYAと呼ばれる腸内細菌代謝物が、マウスの組織中で増加することを見出しました。
非アルコール性脂肪肝炎に対するHYAの効果を検証するために、正常マウスに、通常食、高脂肪食、HYA含有高脂肪食、リノール酸含有高脂肪食、のいずれかを26週間与えて飼育し、肝臓の変化を評価しました。通常食を摂取したマウスと比べ高脂肪食を摂取したマウスの肝臓において、脂肪沈着、炎症細胞の浸潤、肝臓の線維化などの非アルコール性脂肪肝炎の変化が観察されました(図1)。一方、HYA含有高脂肪食を摂取したマウスは高脂肪食を摂取したマウスと比べて、脂肪沈着、炎症細胞の浸潤、肝臓の線維化のいずれの変化も改善しましたが、特に線維化の改善が顕著でした(図1)。リノール酸含有高脂肪食を摂取したマウスでは、HYA含有高脂肪食を摂取したマウスのような肝臓組織の改善は認められませんでした。肝臓組織の変化と一致して、HYA含有高脂肪食を摂取したマウスは高脂肪食を摂取したマウスと比べて、肝臓の線維化に関連する遺伝子の発現が低下していました(図2)。
肝臓には肝細胞以外にもいくつかの細胞が存在しますが、そのうち肝星細胞と呼ばれる細胞の活性化が肝臓の線維化に関係することが知られています。研究グループは、培養細胞を用いた実験により、HYAが肝星細胞の活性化を強く抑制することにより肝臓の線維化を改善することを明らかにしました(図3)。

図1と図2

図3

今後の展開

腸内細菌代謝物HYAは、肝臓の線維化を抑制することによりヒトにおける非アルコール性脂肪肝炎に対する新たな治療法を提供する可能性が期待されます。

用語解説

(注1)
肝臓に存在する細胞のうち10%程度を占め、ビタミンAを貯蔵する細胞。正常な肝臓では非活性化状態であるが、肝臓が障害を受けると活性化しコラーゲンなどの細胞外マトリックス(細胞外に存在する不溶性物質)を産生し、組織の修復を促す。非アルコール性脂肪肝炎では、肝星細胞の慢性的な活性化により過度に細胞外マトリックスが産生され、線維化につながる。
(注2)
脂肪酸の一種。植物油をはじめとした多くの食品に含まれている。

論文情報

<タイトル>
A gut microbial metabolite of linoleic acid ameliorates liver fibrosis by inhibiting TGF-β signaling in hepatic stellate cells
DOI : 10.1038/s41598-023-46404-5
https://www.nature.com/articles/s41598-023-46404-5(外部サイトへリンク)

<著者>
Nanaho Kasahara1,8, Yukiko Imi1,8, Reina Amano1, Masakazu Shinohara2,3, Kumiko Okada4, Yusei Hosokawa4, Makoto Imamori4, Chiaki Tomimoto5, Jun Kunisawa6, Shigenobu Kishino7, Jun Ogawa7, Wataru Ogawa4, Tetsuya Hosooka1,4,6,*
  1. 静岡県立大学食品栄養科学部栄養生命科学科栄養生理学研究室
  2. 神戸大学大学院医学研究科 分子疫学
  3. 神戸大学大学院医学研究科 質量分析総合センター
  4. 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学
  5. Noster株式会社 R&D本部
  6. 医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター
  7. 京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻 発酵生理及び醸造学分野
  8. 共筆頭著者
* 責任著者

<掲載誌>
Scientific Reports

お問い合わせ

薬食生命科学総合学府 栄養生理学研究室 准教授 細岡哲也
電話:054-264-5533
E-mail: thosooka@u-shizuoka-ken.ac.jp
研究室ホームページ:https://www.nutriphysiol.com/

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