静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士前期課程修了生の池田誌花さん、鈴木利幸実験等補助員、中川志都美実験等補助員、食品栄養科学部の三好規之教授、田村謙太郎准教授らの研究グループおよび、京都大学大学院の大坪卓さん、嶋田知生講師、フランスのクレルモン・オーベルニュ大学のVanrobays Emmanuel准教授、Tatout Christophe教授らは、植物が害虫から自分を守るための新しい仕組みを発見しました。本研究成果は、キャベツ、ブロッコリー、ワサビといったアブラナ科農作物を害虫被害から守り、農薬の使用量を削減する技術開発に繋がる可能性があります。本研究は10月2日、イギリスの科学雑誌『New Phytologist』の電子版に発表されました。
概要
私たちの食卓を支える野菜や果物などの農作物は、常に害虫の脅威にさらされています。これらの虫害により、収穫量の減少や品質の低下が引き起こされ、世界的な食料不足の一因となっています。一方で、植物は虫から身を守るために、独自の防御システムを持っています。例えば、植物の体が傷つくと毒のような物質を素早く作って虫を撃退します。しかし、このシステムがうまく働かないと、植物は虫に食べられてしまい、成長が妨げられてしまいます。そのため、この防御システムがどのように働くのかを深く理解することは、害虫に強い作物を開発し、農薬を減らす未来の農業に不可欠です。
研究グループはモデル植物シロイヌナズナを用いて、SUNタンパク質とPOD1タンパク質が作る「SUN-POD1タンパク質複合体」が、植物の防御を支える重要な役割を果たしていることを明らかにしました。この複合体は、植物の「武器庫」の役割を担う細胞内器官ERボディを形成することで、虫が植物を食べたときに毒の原料(グルコシノレート)を素早く分解して毒性物質(イソチオシアネート)を活性化させる「司令塔」として機能していることがわかりました(図1)。
研究では、これらSUN(SUN1、SUN2、SUN3の3種類)およびPOD1タンパク質を欠損させた植物を作成して、武器庫の形や虫に対する抵抗力を調べました。その結果、この植物ではERボディが細かく砕けて小さくなっていました(図2)。この結果は、SUN-POD1複合体が植物のERボディの形成に欠かせないことを示しています。さらに、この植物体では虫に対する防御力が弱まっており、ダンゴムシ(Armadillidium vulgare)を使った食害実験で、通常の植物よりもたくさん食べられてしまうことがわかりました。成分分析の結果、SUNタンパク質を欠損させた植物では、害虫の忌避物質であるイソチオシアネートの量が減少していました。これらの結果から、SUN-POD1タンパク質複合体が適切に働くことが、害虫との闘いに打ち勝つことに重要であることが分かりました。
この研究成果は、植物が虫から身を守る基本的な仕組みを理解する上で重要になるだけでなく、農業における害虫対策にも新たな可能性をもたらすことが期待できます。国際食糧農業機関(FAO)によると、害虫による農作物の損失は、世界全体で年間約2900億ドルに達しており、約8億人が十分な食料を得られていない状況に陥っているとされています。本研究成果を応用することで、虫に強い作物を作ることで収穫量を増加させ、農薬の使用を減らし、将来の食料問題の解決にも貢献できる可能性があります。
研究グループはモデル植物シロイヌナズナを用いて、SUNタンパク質とPOD1タンパク質が作る「SUN-POD1タンパク質複合体」が、植物の防御を支える重要な役割を果たしていることを明らかにしました。この複合体は、植物の「武器庫」の役割を担う細胞内器官ERボディを形成することで、虫が植物を食べたときに毒の原料(グルコシノレート)を素早く分解して毒性物質(イソチオシアネート)を活性化させる「司令塔」として機能していることがわかりました(図1)。
研究では、これらSUN(SUN1、SUN2、SUN3の3種類)およびPOD1タンパク質を欠損させた植物を作成して、武器庫の形や虫に対する抵抗力を調べました。その結果、この植物ではERボディが細かく砕けて小さくなっていました(図2)。この結果は、SUN-POD1複合体が植物のERボディの形成に欠かせないことを示しています。さらに、この植物体では虫に対する防御力が弱まっており、ダンゴムシ(Armadillidium vulgare)を使った食害実験で、通常の植物よりもたくさん食べられてしまうことがわかりました。成分分析の結果、SUNタンパク質を欠損させた植物では、害虫の忌避物質であるイソチオシアネートの量が減少していました。これらの結果から、SUN-POD1タンパク質複合体が適切に働くことが、害虫との闘いに打ち勝つことに重要であることが分かりました。
この研究成果は、植物が虫から身を守る基本的な仕組みを理解する上で重要になるだけでなく、農業における害虫対策にも新たな可能性をもたらすことが期待できます。国際食糧農業機関(FAO)によると、害虫による農作物の損失は、世界全体で年間約2900億ドルに達しており、約8億人が十分な食料を得られていない状況に陥っているとされています。本研究成果を応用することで、虫に強い作物を作ることで収穫量を増加させ、農薬の使用を減らし、将来の食料問題の解決にも貢献できる可能性があります。
用語解説
アブラナ科植物
ワサビ、キャベツ、大根、ブロッコリー、白菜など、身近な野菜が多く含まれる植物のグループ。世界中で栽培されており、人類の食を支える重要な農作物です。
シロイヌナズナ
アブラナ科の植物で、遺伝子配列が解読されており、植物科学研究において広く用いられています。
ERボディ
植物の細胞内にある直径約10 µmの小器官で、害虫に対する毒の原料を生成する酵素を蓄積します。アブラナ科植物 (例: キャベツやブロッコリー)に特有で、植物の「武器庫」のような役割を果たします。
SUN-POD1タンパク質複合体
植物の細胞内で働くタンパク質のチームで、武器庫の形と機能を保ち、毒の活性化を助けます。
グルコシノレート
植物が作る毒の原料で、虫によって植物が傷つくと活性化されて毒性物質 (イソチオシアネート) になり、虫を撃退します。
ワサビ、キャベツ、大根、ブロッコリー、白菜など、身近な野菜が多く含まれる植物のグループ。世界中で栽培されており、人類の食を支える重要な農作物です。
シロイヌナズナ
アブラナ科の植物で、遺伝子配列が解読されており、植物科学研究において広く用いられています。
ERボディ
植物の細胞内にある直径約10 µmの小器官で、害虫に対する毒の原料を生成する酵素を蓄積します。アブラナ科植物 (例: キャベツやブロッコリー)に特有で、植物の「武器庫」のような役割を果たします。
SUN-POD1タンパク質複合体
植物の細胞内で働くタンパク質のチームで、武器庫の形と機能を保ち、毒の活性化を助けます。
グルコシノレート
植物が作る毒の原料で、虫によって植物が傷つくと活性化されて毒性物質 (イソチオシアネート) になり、虫を撃退します。
発表者・研究者等情報
静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府
池田誌花 博士前期課程修了生
鈴木利幸 実験等補助員
中川志都美 実験等補助員
三好規之 教授
田村謙太郎 准教授
京都大学大学院理学研究科
大坪卓 修士課程
嶋田知生 講師
クレルモン・オーベルニュ大学(フランス)
Vanrobays Emmanuel 准教授
Tatout Christophe 教授
池田誌花 博士前期課程修了生
鈴木利幸 実験等補助員
中川志都美 実験等補助員
三好規之 教授
田村謙太郎 准教授
京都大学大学院理学研究科
大坪卓 修士課程
嶋田知生 講師
クレルモン・オーベルニュ大学(フランス)
Vanrobays Emmanuel 准教授
Tatout Christophe 教授
原著論文情報
<論文名:>
The mid-SUN-POD1 complex ensures the structural integrity of ER bodies required for herbivore defense in Arabidopsis
<著者名>
Fumika Ikeda, Taku Ohtsubo, Shitomi Nakagawa, Toshiyuki Suzuki, Noriyuki Miyoshi, Emmanuel Vanrobays, Christophe Tatout, Tomoo Shimada, Kentaro Tamura
<雑紙名>
New Phytologist
DOI: https://doi.org/10.1111/nph.70613
<公表日>
2025年10月2日(日本時間)
<掲載URL>
https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.70613
The mid-SUN-POD1 complex ensures the structural integrity of ER bodies required for herbivore defense in Arabidopsis
<著者名>
Fumika Ikeda, Taku Ohtsubo, Shitomi Nakagawa, Toshiyuki Suzuki, Noriyuki Miyoshi, Emmanuel Vanrobays, Christophe Tatout, Tomoo Shimada, Kentaro Tamura
<雑紙名>
New Phytologist
DOI: https://doi.org/10.1111/nph.70613
<公表日>
2025年10月2日(日本時間)
<掲載URL>
https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.70613
研究助成
本研究はHuman Frontier Science Program RGP0009/2018、日本学術振興会科学研究費基盤研究(C) JP22K06269、学術変革領域研究 (A) JP23J04205、挑戦的研究(萌芽)25K22481の助成を受けたものです。
お問い合わせ
食品栄養科学部 田村 謙太郎
電話:054-264-5707
E-mail:tamura(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
研究室紹介Webサイト:https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/labs/ecophys/
電話:054-264-5707
E-mail:tamura(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
研究室紹介Webサイト:https://dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/labs/ecophys/
(2025年10月9日)