本学薬学部の渡辺賢二教授、佐藤道大准教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のケンダール・ハウク(Kendall Houk)教授のグループは、縮合環状ポリエーテル構造の生成における酵素反応anti-Baldwinエポキシド開環カスケードの位置選択性を量子力学計算とAIを用いることで世界で初めて解明することに成功しました。本成果は、化学分野において最も権威のある国際化学雑誌『Journal of the American Chemical Society』(Impact Factor: 15.7) 電子版に11月11日付けで掲載されました。
渦鞭毛藻などが生産する梯子状ポリエーテル天然物は5から9員環のエーテル環がtrans-syn-trans に縮環した共通の特徴を有しており、一見良く似た構造であるにもかかわらず、多岐にわたる強力な生理活性を示します。しかし、天然から得られるサンプルが極微量であるため活性発現機構や標的タンパク質との分子認識に関する詳細な研究は立ち遅れています。梯子状ポリエーテル化合物は、当初、食中毒の原因物質として発見され、その後、単細胞藻類の代謝産物として分離・同定された生物活性天然物です。この種の化合物の大部分は強力な毒性を有しており、その発現機構に興味が持たれているが詳細は不明です。作用標的分子に関しては、ブレベトキシン類、シガトキシン類が電位依存性ナトリウムチャネルに結合することが知られているのみであり、他のポリエーテルについては依然として未解明なままです。
これら天然物の類縁体であるpyrenulic acidはベトナム産地衣類由来の子嚢菌Pyrenula属から単離された細胞毒性ポリケチドであり、縮合環状ポリエーテル構造を特徴とします。ゲノムシーケンス、in silico解析、およびRT-PCRにより、pyrenulic acid(pya)生合成遺伝子クラスターが同定されました。Aspergillus nidulansを用いた異種宿主における各遺伝子発現による酵素機能解析に基づき、アルキル鎖末端のエポキシ化および水酸化をそれぞれ行う2つのシトクロムP450 PyaGおよびPyaJ、ならびにエポキシド開環6-endoおよび7-endo環化反応を触媒することにより、6および7員環縮合二環式ジエーテル骨格を構築するα/β加水分解酵素PyaFを発見した。Pyrenulic acid形成の詳細なメカニズムを解明するため、PyaFを組換え酵素として獲得し、in vitro実験を実施して、PyaFによる環化反応メカニズムを解明しました。さらに、機能が既知のα/β加水分解酵素とPyaFのアラインメント解析、および詳細な量子力学計算を用いた環化反応経路の解析、および分子動力学シミュレーションと変異体酵素の解析により触媒活性アミノ酸残基は、Ser170、Asn342、Asp314、およびHis169を活性アミノ酸残基として含む珍しい4アミノ酸残基システムであり、Tyr255とHis284はエポキシドの開環を促進するための一般的な塩基として作用すると予測しました。本研究によって縮合環状ポリエーテル構造の生成における酵素によるanti-Baldwinエポキシド開環カスケードの位置選択性がどのように制御されるのかを世界で初めて明らかにしました。
渦鞭毛藻などが生産する梯子状ポリエーテル天然物は5から9員環のエーテル環がtrans-syn-trans に縮環した共通の特徴を有しており、一見良く似た構造であるにもかかわらず、多岐にわたる強力な生理活性を示します。しかし、天然から得られるサンプルが極微量であるため活性発現機構や標的タンパク質との分子認識に関する詳細な研究は立ち遅れています。梯子状ポリエーテル化合物は、当初、食中毒の原因物質として発見され、その後、単細胞藻類の代謝産物として分離・同定された生物活性天然物です。この種の化合物の大部分は強力な毒性を有しており、その発現機構に興味が持たれているが詳細は不明です。作用標的分子に関しては、ブレベトキシン類、シガトキシン類が電位依存性ナトリウムチャネルに結合することが知られているのみであり、他のポリエーテルについては依然として未解明なままです。
これら天然物の類縁体であるpyrenulic acidはベトナム産地衣類由来の子嚢菌Pyrenula属から単離された細胞毒性ポリケチドであり、縮合環状ポリエーテル構造を特徴とします。ゲノムシーケンス、in silico解析、およびRT-PCRにより、pyrenulic acid(pya)生合成遺伝子クラスターが同定されました。Aspergillus nidulansを用いた異種宿主における各遺伝子発現による酵素機能解析に基づき、アルキル鎖末端のエポキシ化および水酸化をそれぞれ行う2つのシトクロムP450 PyaGおよびPyaJ、ならびにエポキシド開環6-endoおよび7-endo環化反応を触媒することにより、6および7員環縮合二環式ジエーテル骨格を構築するα/β加水分解酵素PyaFを発見した。Pyrenulic acid形成の詳細なメカニズムを解明するため、PyaFを組換え酵素として獲得し、in vitro実験を実施して、PyaFによる環化反応メカニズムを解明しました。さらに、機能が既知のα/β加水分解酵素とPyaFのアラインメント解析、および詳細な量子力学計算を用いた環化反応経路の解析、および分子動力学シミュレーションと変異体酵素の解析により触媒活性アミノ酸残基は、Ser170、Asn342、Asp314、およびHis169を活性アミノ酸残基として含む珍しい4アミノ酸残基システムであり、Tyr255とHis284はエポキシドの開環を促進するための一般的な塩基として作用すると予測しました。本研究によって縮合環状ポリエーテル構造の生成における酵素によるanti-Baldwinエポキシド開環カスケードの位置選択性がどのように制御されるのかを世界で初めて明らかにしました。

<掲載された論文>
Enzymatic anti-Baldwin Ring Closure Cascade for Fused Bicyclic Ether Formation
Michio Sato, Yui Ito, Tomomi Kagoura, Sakurako Sakano, Yuta Tsunematsu, Jinkai Cheng, Pauline Bianchi, K. N. Houk and Kenji Watanabe
関連リンク:American Chemical Society
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.5c17188(外部サイトへリンク)
(2025年11月13日)
Enzymatic anti-Baldwin Ring Closure Cascade for Fused Bicyclic Ether Formation
Michio Sato, Yui Ito, Tomomi Kagoura, Sakurako Sakano, Yuta Tsunematsu, Jinkai Cheng, Pauline Bianchi, K. N. Houk and Kenji Watanabe
関連リンク:American Chemical Society
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.5c17188(外部サイトへリンク)
(2025年11月13日)




