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思春期特発性側弯症の重症度に「家族歴」と「初経の遅れ」が関連(共同プレスリリース)


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藤田医科大学
静岡県立総合病院
静岡県立大学

思春期特発性側弯症の重症度に「家族歴」と「初経の遅れ」が関連 ─初経の遅さが重症度に寄与する可能性を遺伝的に裏づけ─

藤田医科大学研究推進部ゲノミクス医学センター統計応用遺伝医学講座 寺尾知可史教授(静岡県立大学薬学部ゲノム病態解析分野特任教授)、慶應義塾大学医学部整形外科学教室 渡邉航太准教授、田中龍太郎助教らの研究グループは、思春期特発性側弯症(AIS)において、初経年齢の遅さが重症度に寄与する可能性を、遺伝統計解析によって初めて遺伝的に裏づけました。加えて、初経年齢に関わる遺伝的要因はAISの「発症のしやすさ」ではなく「重症度」に特異的に関わることも示しました。
本研究では、思春期特発性側弯症(AIS)の患者約5,900人の大規模な臨床データに、大規模なゲノム情報(GWAS)を用いた遺伝統計解析を組み合わせました。発症した血縁者の人数(家族歴)や初経年齢 (初潮) の遅さが側弯(Cobb[コブ]角)の重症度と関連することはこれまでも知られていましたが、学校検診のような一時点の調査ではなく、骨成熟後の最終的な側弯の程度まで追った大規模なデータで、この関連を定量的に確かめました。家族歴と初経という簡便な情報を用いた今回の成果は、重症化しやすい患者を早期に見分ける (リスク層別化) ことにつながると期待されます。
本研究は、科学雑誌 『Frontiers in endocrinology』 の (Bone Researchセクション) オンライン版にて2026年8月7日に公開されました。

論文URL:
https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/articles/10.3389/fendo.2026.1876849/full(外部サイトへリンク)

研究成果のポイント

  • 約5,900人のAIS患者の大規模臨床データを用い、家族歴 (血縁者の人数) が多いほど側弯(Cobb角)が重症になるという用量依存的な関連を、大規模データで初めて量的に示した。
  • 初経年齢が遅いほど側弯が重症になるという臨床的関連を大規模に確認し、遺伝統計解析により、初経年齢の遅さが重症度に因果的に寄与する可能性を遺伝的に裏づけた。
  • 初経の遺伝的要因はAISの「発症のしやすさ」ではなく「重症度」に特異的に関わることを示し、家族歴・初経が重症化リスクの層別化に活用できる可能性を示唆した。

背景

AIS (思春期特発性側弯症) は、脊椎が3次元的にねじれて体幹が変形する原因不明の疾患で、10歳以降の主に女子にみられ、思春期人口の2〜3%に発症します。変形が進行すると腰背部痛や呼吸機能障害を生じ、外見の変形から心理的負担も伴います。重度例では脊椎の矯正固定術が必要となるため、発症後にどの程度重症化するかの予測が強く求められています。
AISは遺伝的要因と環境要因が関与する多因子疾患で、家族集積性が古くから知られ、研究グループはこれまでに多数の遺伝子多型 (一塩基多型:SNP) を網羅的に調べるGWAS (ゲノムワイド関連解析) でAIS発症に関わる20の遺伝子領域を報告してきました。しかし家族歴とCobb角 の重症度との関係を大規模データで量的に解析した研究は限られていました。また、初経年齢が遅いほど側弯の進行が速いことが疫学研究で示唆されていましたが、初経年齢の遅さが側弯の重症度に因果的に寄与するのか、その程度は不明でした。初経はエストロゲン (女性ホルモン) による成熟を反映し、エストロゲン受容体シグナルはAISの進行・重症度と関連すると報告されていることから、本研究では初経と重症度の関係を臨床・遺伝の両面から検証しました。なお、これまでの研究で「やせ型(低BMI)」がAISの発症と関連することが報告されているため、本研究の解析では体格の影響を除く目的で、年齢とともにBMIを補正 (共変量として調整) しました。

研究手法・研究成果

1) 家族歴 (血縁者の人数) と側弯の重症度:整形外科専門医が第4親等 (いとこ) までのAISの家族歴を聞き取り、5,891人を解析しました。家族歴を有する患者は全体の21.0%でした。年齢・BMIを補正したところ、家族歴がある患者は側弯 (Cobb角) が有意に大きく、罹患した血縁者の人数が多いほど重症になる用量依存的な関連が認められました (図1)。
2) 初経年齢の遅さと側弯の重症度:初経の記録がある女性患者4,119人では、初経年齢が遅いほど側弯が重症になる直線的な関連がみられました。初経の時期で3群に分けると、最も早い群に比べ最も遅い群では、Cobb角が平均で約7度大きくなりました (図2)。

図1と図2

3) 遺伝統計解析による裏づけ:これらの関連の遺伝的な裏づけを、ゲノム (遺伝子) 情報を用いて調べました。まず遺伝相関を調べたところ、初経年齢の遅さはAISの「重症度」とは有意な正の相関がある一方、「発症のしやすさ」とは相関がなく、このことから初経に関わる体質は発症よりも重症度に関係すると考えられます。さらに、因果関係を推定する「メンデリアン・ランダマイゼーション(MR)」でも、初経年齢が遅い体質が側弯を重くする可能性が示されました (図3)。加えて、AIS発症に関わる遺伝子も側弯を重くする傾向がありました。

図3

今後の展開

家族歴と初経は問診で得られる情報で、本研究はこれらを用いて重症化しやすい患者を早期に見分け、経過観察や治療方針を個別最適化する科学的根拠と考えます。特に初経前後は側弯が進行しやすく、初経の状況を継続的に確認することがリスク評価に役立ちます。本研究は東アジア人集団が対象のため、他集団での検証は今後の課題であり、初経年齢の遅さと重症度をつなぐ生物学的機序 (エストロゲン受容体シグナル等) の解明が、重症化を抑える新たな治療・予防法の開発につながると期待されます。

用語解説

[1] 思春期特発性側弯症 (AIS):
10歳以降の思春期に発症する原因不明の側弯症。脊椎が3次元的にねじれ、主に女子にみられる。思春期人口の2〜3%に発症。

[2] Cobb角 (コブ角):
側弯の重症度を表す指標。X線写真で湾曲の最も傾いた上下の椎骨がつくる角度。10度以上で側弯症と診断され、角度が大きいほど重症。

[3] 初経年齢 (AAM):
初めて月経が起こる年齢。エストロゲンによる成熟を反映する指標。age at menarcheの略。

[4] 家族歴:
血縁者に同じ病気の人がいるかの情報。本研究では第4親等(いとこまで)でAISの有無を聞き取り、遺伝的素因の目安とした。

[5] BMI (体格指数):
体重÷身長 (m)²で表す肥満・やせの指標。低BMIはAIS発症と関連するため補正 (共変量) に用いた。body mass indexの略。

[6] 遺伝子多型、一塩基多型 (SNP) :
個人間で遺伝子配列の一部が異なる状態を遺伝子多型という。なかでも、集団の1%以上でみられる一塩基 (1文字) 単位の違いを一塩基多型 (SNP) と呼ぶ。

[7] GWAS (ゲノムワイド関連解析):
疾患の感受性遺伝子を探す方法の一つ。ゲノム全体の遺伝子多型を用い、疾患のある群とない群で頻度に差がある部位を統計的に調べる。genome-wide association studyの略。

[8] 遺伝相関:
二つの形質がどの程度共通の遺伝要因を背景にもつかを示す指標。本研究はLDSCで推定。

[9] メンデリアン・ランダマイゼーション (MR):
GWASで見つかった疾患感受性SNPを用いて、形質・疾患間の遺伝的な因果関係を推定する遺伝統計学の手法。Mendelian randomizationの略。

文献情報

論文タイトル:
Clinical and genetic evidence from East Asian cohorts linking family history burden and menarche timing to curve severity in adolescent idiopathic scoliosis

著者:
田中 龍太郎1,2,3、岩見 卓朗1,2,3、米澤 嘉朗1、大伴 直央1,2,4、武田 和樹1、池川 志郎2、松本 守雄1、中村 雅也1、渡邉 航太1、寺尾 知可史2,3,5,6

所属:
1. 慶應義塾大学医学部整形外科学教室、
2. 理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チーム(研究当時)
3. 静岡県立総合病院 臨床研究部
4. Scottish Rite for Children(米国)
5. 藤田医科大学 研究推進本部 ゲノミクス医学センター 統計応用遺伝医学講座
6. 静岡県立大学薬学部 ゲノム病態解析分野

DOI:
10.3389/fendo.2026.1876849

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